濱野さんは「地元に根付いていないものを、外にPRしても意味がない。だから、まずは境港の一般家庭で、ベニズワイガニをふだんから利用してほしい。ベニズワイガニ料理を気軽に作ってもらうことが大切だと考えました」と語る。「そのためにはボイル品でなく、生の姿のものをベニズワイガニの特性を踏まえたうえで調理してもらう必要があった」(濱野さん)ため、まずはベニズワイガニの料理教室を開催した。

「ベニを美味しく味わうために、とにかく知ってもらいたいのは調理法なんです」と濱野さん。「ベニのよさは、女性にたとえるとわかりやすいです。身近なお母ちゃんみたいだけど、磨けば光る、抜群のお姉ちゃんに変身するんですよ。手間がかかるけどいい女、お金のかからないいい女、2番手の底力、下積み中のグランプリ候補!」

 ……まるで、「カニアイドル界」を語る秋元康のようである。

 そもそも本業が忙しいなかのカニ活動。ときにくたびれて「休日返上で、俺の全生活を侵食してくるベニズワイガニって……」と思う日もある。でも「この子のよさを、もっとわかってもらいたいんですよ」と、ベニズワイガニの普及にいそしむ濱野さんの姿から確信する。ベニは十分「魔性の美女カニ」らしい。

1匹で5品、1000円ギリ!
「家庭でできるベニズワイガニフルコース」

 ベニズワイガニの一般家庭への普及のために、有志の会が考案したのは「1匹の生のベニズワイガニで5品を作る簡単ベニズワイガニ料理」。1匹と言っても地元でのベニズワイガニは1000円ギリ。「生のカニ1匹を使えば、カニ刺しから、甲羅蒸し、ゆでカニ、カニ汁まで調理の幅が広がります。ここまで可能性がある、懐にやさしいカニだとわかってほしかったんですよね」。

 さっそく濱野さんに1匹で楽しむ「ベニズワイガニフルコース」を作っていただいた。

「ベニズワイガニの美味しさを楽しむにはなんといっても下処理が大切です。と濱野さん。といっても「難しいことではないんですよ」。

 ひとつめのポイントは「甲羅の中に入った砂をきれいに掃除すること」。深海の泥の中にいるためベニズワイガニは甲羅をはずすと砂泥が入っている。これが食感も損ない、生臭さの原因となる。カニ味噌が流れないように気を付けながら、洗い流す。

 ふたつめは「脚、爪の部分と甲羅の部分を分けて調理すること」。それぞれの味わいを引き出すためにはゆで時間や調理の仕方が異なるのだ。「とはいっても難しいわけじゃないんです」と濱野さん。

 鍋に湯を沸かして、塩を入れて脚、爪をゆでる。「お吸い物程度の塩加減でゆでます。塩が濃すぎると身が締まりすぎるし、薄いと身が水っぽくなってしまうんです」。そして鍋の上には、蒸し器をのせて甲羅を置き、10分。「これでどちらもベストタイミングの仕上がりになります」

濱野さんが作ってくださった、1匹の生のベニズワイガニで作られたベニズワイガニ料理。ゆでカニ、カニ刺し、カニ汁、甲羅蒸し、揚げカニ。これで1000円ギリ!

 ここまでの過程で、刺身、ゆでカニ、甲羅蒸しは完成。さらに煮たてたおすましにカニの足を入れてさっとひと煮立ちさせて、カニ汁が完成。さらに、カニの脚を素揚げにした揚げカニで全5品が完成。

 刺身はとろり、ゆでカニもほくほくでコクのある風味、だしがたっぷりでたカニ汁、こってりとろけるカニ味噌は日本酒をよび、からりと揚げてブラックペッパーをかけた揚げガ二はビールをよぶ。

 松葉ガニなら数千円するところが、1000円ギリで、まるでお店のような「カニフルコース」! いきなり、家庭で「カニセレブ」な気分になれるなんて素晴らしすぎる。正直、境港市民がうらやましい。ベニはまさに、お茶の間のアイドル。この美味しさはAKBでいえばセンター入り。恐るべし、ベニ!