もうひとつの背景は、国交正常化から40年以上経って、両国の力が均衡してきたことです。1990年は日中のGDPは8対1、2000年は4対1でした。しかし、直近の10年間で中国は日本を超えました。日本は中国に対する余裕と自信がなくなってきたのだと思います。日本人特有の心配、懸念、危機意識が前面に出てきた。自信喪失、疑心暗鬼になっています。

 もちろん、中国にも多くの国内問題があり、体が大きくなったわりに、それに相応しい“大人の国”には成りきれていません。かつての戦争による被害者意識を引きずっているところもある。大人であれば、日本は国交正常化の際に謝罪をしたのだから、前を向いていくものでしょう。中国も複雑な国内問題を抱えているため、日本に対して余裕を持った対応ができていないという面もあると思います。

 国交正常化の際、周恩来首相は「日中は互いに小異を残して大同につく」と言いました。これはお互いに違いや問題はいくつかあるが、突き詰めようとしてもそれらを解決することはできないので、蓋をして、暴発しないようにしようということです。経済や文化の交流を進めて、相対的にそれらの問題を小さいものにしていこうと。

 鄧小平氏が訪日したときに、その精神で領土問題は次の世代に解決をゆだねようということになった。両国ともに受け入れられる解決策を考え出す知恵が足りないから、お互いに触らないということになった。それを田中角栄首相が受け入れたわけです。

 しかし、日本の余裕と自信の喪失、中国での国内問題の影響などに加えて、両国でのナショナリズムの高まりがあり、島を野田佳彦前首相が国有化に踏み切ったことがきっかけで、一気に不満が爆発しました。

島を発火点にしない
参考になる漁業協定

――指摘されている2つの原因のうち、領土を巡る問題は主権に関わるものです。鄧小平氏と田中角栄首相が「次の世代に解決方法をゆだねる」と言っても、主権に関わるという問題の性質自体は変わりません。これは多くの専門家が指摘するように、もはや解決できる問題ではないのだと思います。中国側は今回のAPECを前に「島の問題が解決できなければ首脳会談は行わない」と主張していると言われます。解決できない問題を、どう乗り越えればいいのでしょうか。

 中国は「島の問題を白黒つけろ、中国に島を渡せ」と言っているわけではありません。もう一度、島を巡る問題が存在することをお互いに認め合って、その上で、もう一回蓋をして、棚上げしようと言うのが中国の主張です。

 日本は国有化して、領土を巡る問題が存在するということすら認めなくなった。70年代から80年代は、お互いに「まあまあ、触らないようにしましょう」という両国間の配慮があった。しかし、日本は島の領有権については中国は関係ないだろう、という態度をとるようになったから、中国は我慢できなくなった。

 中国は問題の解決を求めているわけではない。問題が存在することを認めてほしいということです。1972年の国交正常化のときは、田中角栄首相は自らすすんで島の問題をどうするか、と切り出した。今は問題もないし、棚上げもない、日本の領土だ、と言っている。中国にしてみれば、主張していかないと、言うことすらできなくなってしまうと考えている。