「今日は苦しくても、あさってには、いいことがある」
80歳、現役・女社長・今野由梨が送る、人間関係・人生・仕事・お金・幸せ・病気・男女・子ども、の悩みが力に変わる「メッセージ」。
孫正義氏推薦の著書『だいじょうぶ。』より、抜粋&編集して、お届けいたします!

あなたが「誰かのために真心を込めてしたこと」は、
何年、何十年かして、必ず、返ってくる

今野由梨(こんのゆり)
ダイヤル・サービス株式会社代表取締役社長。
1936年三重県生まれ。津田塾大学英文学科卒業。1969年ダイヤル・サービス株式会社の設立にこぎつけ、日本初の電話育児相談サービス「赤ちゃん110番」を立ち上げる。
1985年情報化月間「郵政大臣賞」受賞。
2007年日本の経済社会への寄与による勲章「旭日中綬章(きょくじつちゅうじゅしょう)」を受章。
政府「税制調査会」、内閣府「生活産業創出研究会」、金融庁「金融審議会」など、過去に44の審議会の公職歴をもつ。

「ネコが空を飛んできた」という話を聞いたときは、涙がこぼれそうになりました

 昔、ダイちゃんというネコを飼っていたことがあります。そのネコは、私の会社「ダイヤル・サービス」が創業して間もないころ、会社の近くの林に捨てられていました。

 生まれたばかりでカラスにつつかれたのか、血まみれで、すでに衰弱しきっていました。すぐさま「動物病院」に連れて行って獣医さんに診せたところ、驚くべきことを言われたのです。

「あぁ、もう、これは、ダメ。すぐに死んでしまうから、そこに置いてって。あとで処理しておくから」

 私は、処理を頼みにきたわけではありません。

「先生、なんとかお願いします。この子を、助けてください!」

 何を言っても、先生は動いてくれそうにありません。途方に暮れ、やむなく、そのネコを、自宅に連れて帰りました。

 連れて帰ったものの、どうしたらいいのかわかりません。ミルクを飲ませようと、「お皿」にミルクを入れても、まったく、飲めません。

 であればと、「脱脂綿」にミルクを沁みこませて飲ませようとしても飲んでくれません。

 最後の手段とばかりに「口移し」で、息も絶え絶えのネコにミルクを飲ませると、やっと、すこしだけ、ミルクを飲んでくれました。

 ホッと、一安心したものの、これで回復してくれるのか、皆目、見当はつきませんでしたが、とにかく、毛布でくるんで温めました。

 翌朝、ネコちゃんを見てみると、少しだけ顔色がよくなっているのが分かりました。私は必死で介抱を続け、やがて、元気に部屋の中を歩けるようにまで回復しました。私は、そのネコに、ダイヤル・サービスの頭文字をとって、ダイちゃんと名付けたのです。

 そのダイちゃんが、5歳になったころ、自宅に怪盗「クモ」という名の有名な「ドロボウ」が入ったことがありました。
 同じマンション全室が襲われたのですが、なんと、私の部屋だけ、ドロボウが入った形跡はあるものの、まったく、物がなくなっていませんでした。

 そのドロボウが、捕まったのちに、警察の人が訪ねてきて、教えてくれました。

「あの部屋に入って、物を捕ろうと物色していたら、ネコが空を飛んで、うなり声を上げて、飛びかかってきたので、あわてて部屋の外へ逃げた……」と。

 私はその話を聞いたとき、涙がこぼれそうになりました。赤ちゃんのころに命を救ったダイちゃんが、なんと、私の部屋を守るべく、勇敢にもドロボウに体当たりをしたのです。
 話をしてくれた警官の足下で、ダイちゃんが「フニャー」と鳴いていました。

 動物にも人間の「真心」は伝わります。たとえ、ネコですら「昔の恩」や「今かわいがってもらっている恩」を忘れずに、命がけで、その恩を返そうとするのです。真心や愛情を込めてした行いは、動物にも、しっかりと、伝わっているのです。

 だとすれば、「人間」ならなおのこと。

 今、現在、人間関係で悩んでいたとしても、あなたが「誰かのために真心を込めてしたこと」は、何年、何十年かして、思わぬ形で、必ず、返ってくるのです。
 たとえ、その「当人」からではなかったとしても、回り回って、必ず、あなたのもとに返ってくるものなのです。

 だとしたら、あなたのすることは、ただ、ひとつ。

「誰かのために真心をこめて、何かをする」ただ、それだけではないでしょうか?