西新宿に実在する理容店を舞台に、経営コンサルタントと理容師が「繁盛する理容室」を作り上げるまでの実話に基づいたビジネス小説。「小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!」の掛け声の下、スモールビジネスを成功させ、ビジネスパーソンが逆転する「10の理論戦略」「15のサービス戦略」が動き出す。<理容室「ザンギリ」二代目のオレは、理容業界全体の斜陽化もあって閑古鳥が鳴いている店をなんとか繁盛させたいものの、どうすればいいのかわからない。そこでオレは、客として現れた元経営コンサルタントの役仁立三にアドバイスを頼んだ。ところが、立三の指示は、業界の常識を覆す非常識なものばかりで……>すでに15回にわたって連載した『小さくても勝てます』の中身を、ご好評につき、6回分を追加連載として公開します。

理容師には人を見抜く力がある

「で、本を読む以外に何やった?」と立三さんは言った。

カットの前、髪を濡らしていたオレの手は止まった。

――立三さんは、オレがいろんなことをしているのを見透かしている。

そう思った鏡の中に、オレの心の中を覗くかのように見つめる立三さんがいた。

「君には優れた能力が2つある」立三さんは唐突に言った。「気づいているか? 1つは、人を見抜く力や」

――そうかな? でも、どうしてそう思ったんだろう。

「江戸の中期に、水野南北という“日本一の観相家”がいたんや。『黙って座ればピタリと当たる』というのは南北のための言葉や。南北は観相の修業のために、9年もの間、いろんな仕事に就きながら人間を観察し、研究し、『観相学』の奥義を究めたんや。君も理容師として10年、やってきたやろ?」

「はい」

「まあ、君も観相家やったとしたら、もうそろそろ免許皆伝になるくらいには、いろんな人を見てきたことになる、あとは技術と方法の体系がないだけやろ、それでも十分な直感はあるはずや」

言われてみれば、そのとおりだった。

「それで、役仁立三を見つけたんやろ?」

立三さんは、ニヤリと笑って続けた。