SNSが誕生した時期に思春期を迎え、SNSの隆盛とともに青春時代を過ごし、そして就職して大人になった、いわゆる「ゆとり世代」。彼らにとって、ネット上で誰かから常に見られている、常に評価されているということは「常識」である。それ故、この世代にとって、「承認欲求」というのは極めて厄介な大問題であるという。それは日本だけの現象ではない。海外でもやはり、フェイスブックやインスタグラムで飾った自分を表現することに明け暮れ、そのプレッシャーから病んでしまっている若者が増殖しているという。初の著書である『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)で承認欲求との8年に及ぶ闘いを描いた川代紗生さんもその一人だ。「承認欲求」とは果たして何なのか? 現代社会に蠢く新たな病について考察する(本編は書籍には収録されなかった番外編です)。

「使えないクソ上司」について愚痴ってる人たちはみんな仕事ができるのか問題Photo: Adobe Stock

ある晩聞いたサラリーマンの愚痴

「いやー、マジで使えねえからなー、あいつ」
「大変だな、頼られてると」
「だってできるやつやめちゃったからさ、俺がやるしかないんですよね」

仕事終わりに入った定食屋さんで耳にした言葉に何かが引っかかって、今、これを書いている。

もともと今日は違う記事を更新しようと思っていたのだが、変えることにした。なぜか。隣の席のサラリーマンたちが話していることが、とても面白かったからだ。

きっと私と同じで仕事終わりなのだろう、スーツのネクタイを緩めている30代半ばくらいのサラリーマンたちは、仕事の愚痴を話していた。どうやら、人手不足らしい。仕事量は多いのに、それをこなせる人間が足りておらず、隣にいる人にものすごい量の業務が降ってきてしまっているようだった。

ちらり、と横を見やる。疲れ切った顔をしていた。本当に疲れているのだろうと思った。

彼らは年の近い先輩と後輩か何かのようだった。どうやら主に愚痴っている方が後輩で、それを聞いているのが先輩のようだった。話を聞いている限り、主にお互いが知っている人物について愚痴を言っているようだった。上司か、チームリーダーか何かだろう。

「本当ね。きついっすわ。なんなんすか、あの人」
「いやー、マジでかわいそう。同情するよ」
「たぶんね、効率悪いんだと思うんですよ。なんでああなっちゃうかなー。俺なら絶対にやらないのに」
「あー、それは側から見ててもわかる。効率悪いやり方してるもんね」
「やばいっすよ、今。だってできる人本当いないの。俺しかいないんですよ。辞めたいけどやるしかないじゃないですか」

もぐもぐ、と疲れた顔で肉を頬張りながら、後輩が言った。

話を聞いている限りだが、この二人は人手不足のあおりを思いっきり受けているようだった。まあ、たしかに。夜の21時を過ぎている。きっと残業帰りなのだろう。私はフリーランスだからこの時間に終わるのは普通だけれど、普通のサラリーマンだったらとっくに帰っていてもいい時間だ。

大変だな、と思っていると、また後輩が言った。

「あー、もうどうにかなんないかな。あのクソ上司」

はあ、と大きくため息をついて、ずずず、と味噌汁をすする。すごい愚痴り方だな、と思った。でもきっとこんな風に愚痴る人なんていくらでもいるんだろうな。

じゃーいきますか、と言って、ご飯を食べ終わると、二人は店を出て行った。彼らが食べた定食は綺麗に空だった。

あ、面白かったからもう少し話聞いていたかったな、と思いつつ、私は二人の後ろ姿を見送った。