仕事、人間関係…周囲に気を使いながらがんばっているのに、なかなかうまくいかず、心をすり減らしている人も多いのではないだろうか。注意しているのに何度も同じミスをしてしまう、上司や同僚といつも折り合いが悪い、片付けが極端に苦手…。こうした生きづらさを抱えている人の中には、「能力が劣っているとか、怠けているわけではなく、本人の『特性』が原因の人もいる」と精神科医の本田秀夫氏は語る。
本田氏は、「生きづらさを感じている人は『苦手を克服する』ことよりも、『生きやすくなる方法をとる』ほうが、かえってうまくいくことも多い」と言う。
2021年9月に、本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』が発売となった。今回は特別に本書の中から、一部内容を抜粋、編集して紹介する。

【発達障害専門の精神科医が教える】「こうあるべき」を手放して、ラクに生きる方法とは?Photo: Adobe Stock

「理想像」や「目標」の調整を意識してみよう

 子どもの頃に親や学校の先生から「こういう人になりなさい」という話をよく聞かされていた人は、大人から言われたような思考パターンになりがちです。

 親や教師との会話を通じて、自分自身の価値観よりも、誰かに言われた価値観を重視する習慣がついてしまうことがあるのです。

 ただ、そのような習慣がついていても、価値観を見直して「偽の理想像」を手放していけば、自己理解を進めていくことができます。

 「無理に話さなくてもいい」「相手の機嫌をとらなくてもいい」「予定はゆるめに立ててもいい」といった形で目標を調整し、自分のスタイルを肯定的に見るようにしていくと、価値観が少しずつ変わっていき、自己理解も進んでいきます。

 自分のなかに「こうあるべきだ」という理想像があって、それが達成できないと自分を責めてしまうという人は、ぜひ目標を調整してみてください。

人に相談すると、解決策が見えてくる場合もある

「生きづらさ」を感じやすい方のなかには、悩みごとを他人に相談するのが苦手な人もいるでしょう。

 家に帰っても、「ひとり反省会」のような状態になって、「今日はあれがよくなかった」「こうすればよかった」「きっともう嫌われてしまった」などと考え込むことはありませんか?

 そうやって悩むことで、「誰にでも失敗はある」と思って気持ちを切り替えられればいいのですが、うまく切り替えられない場合もあります。

 ひとりでいつまでも考え込んで、ネガティブなことしか浮かばない、といった状態になったら、ぜひ家族や友人、信頼できる人に相談することを考えてみてください。

 家族や友人のような身近な人は、あなたのことを日頃からよく見ています。

 あなた以上に、あなたのことをよく知っているかもしれません。

「あなたはがんばり屋さんだよね」「こうしたほうがラクになるんじゃない?」などヒントをくれることもあるでしょう。

 人に相談することで、解決策が見えてくる場合もあります。

 悩みごとを打ち明けるのは簡単ではないかもしれませんが、もしも話しやすい相手がいるのなら、相談してみることをおすすめします。

(本原稿は、本田秀夫著『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』より一部抜粋・改変したものです)

本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(ダイヤモンド社)、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。