仕事、人間関係…周囲に気を使いながらがんばっているのに、なかなかうまくいかず、心をすり減らしている人も多いのではないだろうか。注意しているのに何度も同じミスをしてしまう、上司や同僚といつも折り合いが悪い、片付けが極端に苦手…。こうした生きづらさを抱えている人の中には、「能力が劣っているとか、怠けているわけではなく、本人の『特性』が原因の人もいる」と精神科医の本田秀夫氏は語る。
本田氏は、「生きづらさを感じている人は『苦手を克服する』ことよりも、『生きやすくなる方法をとる』ほうが、かえってうまくいくことも多い」と言う。
2021年9月に、本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』が発売となった。今回は特別に本書の中から、一部内容を抜粋、編集して紹介する。

いつも気が休まらない…。自分を責めすぎて落ち込む…。精神科医が教える、医療の支援を受けた方がいいケースとは?Photo: Adobe Stock

「生きづらさ」の背景に、精神疾患がある場合も

 人間関係や仕事などがうまくいかず、「生きづらさ」を感じていて、なかなか解消しないという場合には、「うつ病」「不安症」といった精神疾患が背景となっている可能性もあります。

 生きづらさが精神疾患の症状と関連しているときには、自分なりの工夫だけで悩みを解決するのは難しく、医療の支援を受けることが重要になってきます。

 人間関係や仕事で「生きづらさ」を感じる場合には、次のような精神疾患などが関係している可能性があります。

うつ病:意欲の低下や悲観的な考え方などが見られる。自信がなくなったり、集中力が下がったりもする。睡眠や食事の不調が見られるのも特徴のひとつ。
 うつ病の人は、いろいろ解決策を試してみても、自分を責めるような気持ちになって、落ち込んでしまうことがある。

不安症:いつも心配していて気が休まらない状態。緊張感も高くなる。とくに、ストレスを多く経験してきた人は、将来にいいイメージを持つことが難しく、不安が慢性化し、不安症の状態になってしまうことがある。

発達障害:自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などのさまざまな特性によって、生活上の支障が出ている状態。
 発達障害の特性があることで、人間関係や仕事などの「生きづらさ」がなかなか解消せず、うつ病や不安症を発症してしまう場合もある。
 その場合には発達障害に「二次障害」が重なって生じていると考え、発達障害と二次障害の両方に対処していく。

パーソナリティ障害:「パーソナリティ」と言うと、「性格」のようなイメージを持つかもしれないが、この場合のパーソナリティは、本人の思考や感情、行動、人間関係など、さまざまな要素を総合的に捉えたもののこと。
 ものごとに対する捉え方や感情の動き、行動や対人関係などが、多くの人と異なるため、本人が苦しんだり、周りの人が困ったりする場合に診断される。
 パーソナリティ障害には、感情や対人関係がつねに不安定で周りの人とのトラブルが多くなる「境界性パーソナリティ障害」や、自尊心をうまく保てず、周りの人にいつも賞賛されていないと気がすまない「自己愛性パーソナリティ障害」、ものごとを自分の思い通りにコントロールしたいという気持ちが強い「強迫性パーソナリティ障害」などがある。

 このような精神疾患や障害などがあって、生活上の支障がある場合には、医療の支援を受けることが必要です。ここでは簡単に解説しているので、この記述に当てはまっているからといって、ただちに精神疾患であるとはかぎりません。

 しかし、ここで挙げた特徴に思い当たる部分があり、そのために「生きづらさ」を感じている場合には、医療機関の受診を検討するのもいいでしょう。

「生きづらさ」を感じている人には、過去の嫌な記憶を思い出して「フラッシュバックのような症状」が出ることや、周りの人に対する「被害妄想的な考え」が生じてしまうこともあります。

 そのような苦しさがある場合にも、医療の対象となります。苦しい状態が続くときは、早めに受診を検討しましょう。

(本原稿は、本田秀夫著『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』より一部抜粋・改変したものです)

本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(ダイヤモンド社)、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。