ジェローム・パウエルFRB議長3月3日、上院銀行委員会の公聴会で証言するパウエルFRB議長 Photo:Pool/gettyimages

ウクライナ情勢という波乱要因がある中でも、欧米の中央銀行は金融引き締めの方向に動いている。一方、日本にその気配はない。その違いを生んでいる最大の原因は、賃金の伸びの差にあると思われる。日米英独4カ国における賃金の推移を示したグラフと、米国で起きている賃上げなどの生々しい描写を基に解説していこう。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

FRBは0.25%利上げの公算
ECBも金融引き締め、日銀は…

 ロシアのウクライナ侵攻により世界経済の不確実性は著しく高まっている。西側諸国はロシアに空前の経済制裁を課しているが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を動かすことは容易ではない。

 第2次世界大戦以降の事例を分析した米シカゴ大学のロバート・ペイプ教授によると、政権交代や軍事侵攻阻止を狙って制裁措置を発動しても、軍事力またはその脅しを使わない場合、成功率は約5%にとどまるという(米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」3月4日)。

 米外交問題評議会のウェブサイトに最近掲載されたロシア研究家らによる多数の論文は、泥沼化および報復の応酬のスパイラルが偶発的に全面戦争を招くリスクなどを指摘している。

「非常に困難な環境の中で決断を行うため、われわれは警戒的そして機敏になる必要がある」。米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は3月1週目の議会証言でそう語った。この状況下でFRB自身が混乱の火種になることを彼は避けたがっている。

 FRBは3月15〜16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1回目となる利上げを手堅く0.25%の幅で決定するもようだ。その後しばらくは毎回のFOMCで0.25%ずつ引き上げ続けると予想するが、情勢次第で利上げペースは「機敏」に変更され得るとパウエル議長は今週強調するだろう。FRBのバランスシート縮小(いわゆる量的引締め)は5月に決定されるのではないかと予想している。

 英中央銀行のイングランド銀行は、昨年12月からすでに2度の利上げを実施しており、この3月からバランスシート縮小を開始している。欧州中央銀行(ECB)は、今年7〜9月期での量的緩和終了の可能性と、早ければ10~12月期での利上げ開始を示唆した。

 他方で、今の日本銀行は金融引き締め方向に動くつもりが全くない。ウクライナ要因で原油や穀物の高騰が続けば、日本のインフレ率はこの4月以降、目標の2%をいったん超えるだろう。しかし日銀は、それがスパイラル的に先行き高まっていくとは全く見ていない。

 米欧の中銀と日銀のスタンスの違いはどこから来るのだろうか?最大の原因は賃金の伸びの差にあると思われる。

 日米英独4カ国における2018年以降の賃金の推移を示したグラフと、米国で起きている賃上げなどの生々しい描写を基に解説していこう。