円安と日銀の金融緩和を巡る「最悪シナリオ」とは?桁違いの金利上昇圧力も	円安と金利上昇の板挟みに陥っている日本銀行 Photo:PIXTA

ドル円相場が一時1ドル=126円台に達し、円安が止まらない。金融緩和の継続を誇示するたびに円を売り込まれる状況に、日本銀行のかじ取りは一層困難を極めている。この板挟みを巡る「最悪シナリオ」として想定されるのは、桁違いの金利上昇圧力だ。それは、3月末に1ドル=125円を突破するきっかけとなった、海外ファンド筋による10年国債の空売りによる圧力の比ではない。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

「プラザ合意」前の
1985年前半と同じ円安水準

 円安に歯止めが掛からない。円は今どれほど「安い」のか。購買力平価を物差しにして見てみよう。

 購買力平価とは2国間の物価水準がおおよそ等しくなる為替レートのことである。計算の手法によって同レートは変わってくるため、絶対的に正しいものは存在しないのだが、参考例として国際通貨基金(IMF)の推計値(2021年10月時点)を見てみよう。

 IMFによる2022年(通年)のドル円レートの推計値は1ドル=96.142円となっていた。4月13日夕方の実際のレートは1ドル=126.10円前後だったので、購買力平価に対して円は31%も割安だったことになる。これは37年前の「プラザ合意」前の水準をも超える強烈な相対的円安といえる。

 1985年2月のドル円レートは259円近辺で、当時の購買力平価(201.835円)に対して28%割安だった。相対的な円の価値は今の方が弱くなっているのだ。

 購買力平価に対して実際のレートが大幅に安いということは、国内でモノを造って輸出する大企業には有利だ。しかし、日本企業による生産拠点の海外移転によって、その恩恵は以前より小さくなっている。

 また大半の中小企業にとって円安は打撃となる。材料等の仕入れコストは上昇するが、製品の納入先である大企業は価格引き上げをなかなか認めてくれないからだ。

 もし現在内外の移動が自由な環境であれば、日本に来た外国からの観光客は「何を見ても安い」と大喜びだっただろう。逆にわれわれが米国などに行ったら円のあまりの弱さにため息をついていたに違いない。

 日本に住んでいる人も、輸入品の価格上昇によって生活が圧迫されてきている。ウクライナ情勢も加わって、原油など天然資源や穀物の価格が高騰する中での円安は、生活者にとってダブルパンチとなる。

 こうした状況下にあっても、日銀は短期金利をマイナス圏、10年国債金利を0%近辺(上限0.25%)に誘導するイールド・カーブ・コントロール(YCC)政策を変更するつもりはない、と主張し続けている。金融引き締めにシフトしつつある海外の中央銀行との違いがますます明瞭となり、内外金利差の拡大を通じて円安進行を招きやすくなっている。