前日本銀行総裁の白川方明氏は4月20日、英貴族院の公聴会に参考人として呼ばれた。英国の議員らは、なぜ日本では量的緩和策を続けてもインフレが起きないのかなど、日本の状況を知りたがっていた。イングランド銀行の量的緩和策の長期化は英経済に何をもたらすのかという問題意識からだ。白川氏の説明を要約するとともに、日本の現状に当てはめて考えてみたい。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
インフレ率を押し上げようという
日銀の努力は完全な失敗
元米財務長官であるハーバード大学のローレンス・サマーズ教授は次のように述べている。
「インフレ率を押し上げようとした日本銀行の広範囲の努力は完全な失敗となった。このことは、かつて自明の理として扱われていたものが、実際には誤りだったことを示している。金融政策によりインフレ率をいつも定めることは、中央銀行にはできない」(2019年8月の論文)
米国の多くの高名な経済学者たちはかつて、日本経済の低迷の原因は不十分な金融緩和策による低インフレ率にあると、日本銀行を激しく批判した。
そうした中、黒田東彦・日銀総裁は2013年春以降、アベノミクスの「第1の矢」として、彼らの期待を遥かに凌駕する大胆な超金融緩和策を実施してみせた。しかし、インフレ率は目標の2%に全く届かない状態が長く続いている。このため、上記のような見解が近年海外でも増えるようになってきている。