独立系投資運用会社のレオス・キャピタルワークスで最高投資責任者(CIO)を務めるファンドマネジャーの藤野英人氏と、京都大学客員准教授として「交渉論」「意思決定論」「起業論」の授業を担当し学生から高い支持を得ている瀧本哲史氏。
対談第2回目は、瀧本氏がコンサルタントとして手がけた日本交通再建の話から、日本の大企業が抱える問題へと発展、そして日本経済再生策へ……

※今回の記事はジセダイ(星海社)のページでも読むことができます。

 

タクシー会社の再建を独立のきっかけに

成長モデルが不透明な時代、<br />必要なのは「投資家思考」だ!藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)1966年、富山県生まれ。1990年、早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、23年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立し、現会社を創業、成長する日本株を組み入れる「ひふみ投信」を運用し、ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。この「ひふみ投信」はR&Iが選定するファンド大賞2012の「最優秀ファンド賞」を受賞した。著書に『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金よりも大切にしていること』(星海社新書)ほか多数。明治大学講師、東証アカデミーフェローも務める。
ひふみ投信:http://www.rheos.jp/
Twitterアカウント:twitter@fu4

藤野 瀧本さんはもともとマッキンゼーでコンサルタントをされていて、独立後に日本交通の再建を手がけられたんですよね。日本交通は、今ではタクシー業界大手4社の中でも断トツの存在です。

 僕はタクシーに乗ると、よく乗務員さんに「お客さんのうち、降りるときに『ありがとう』と言う人はどれくらいの割合ですか?」と聞いてみるのですが、日本交通のタクシーに乗る人は「ありがとう」と言う割合が高い。

 これはおそらく、日本交通のサービスのホスピタリティが高いことと、あいさつを大切にする人が日本交通を選んで乗っていることの相乗効果による傾向ではないかと思っています。

 これは、すごいことですよ。僕自身、時間があってタクシーを選べる時は、いつも日本交通に乗っているんです。瀧本さんから見て、日本交通が再建によって大きく変化したのはどんな点ですか?

瀧本 いろいろありますが、基本はタクシーを「拾われる」ものから「選ばれる」ものにしたことです。お客さんから日本交通を選んでもらえるようになるには、乗務員に「いいサービスを提供してお客さんから評価してもらおう」という意識を持ってもらう必要があります。

 もっとも、タクシーというのはいい意味でも悪い意味でも一期一会ですから、乗務員にとって接客を適当にすませるインセンティブが非常に高いという問題がある。それでも、私たちはタクシーでもブランディングは可能だと考えました。

 実は昔、私自身が日本交通のタクシーに乗ったとき、乗務員の人から「到着まで時間がかかります、お声かけしますからお休みになってはどうですか」と言われたことがあったんです。私が「なぜそんなふうに気配りをされるんですか」と尋ねると、その方は「日交だからですよ」と。「日交は業界ナンバーワンの会社で、お客様からも『日本交通なのだから』と言われることが多いんです。ですから、日交にふさわしいサービスを提供しようと思っています」と言うんです。

 もちろん日本交通のすべてのスタッフがこうした考えを持っていたわけではありませんが、顧客と一部の従業員の間には“日本交通ブランド”が存在していたんですね。

 私は、これをちゃんと広げればかなり強いブランドが作れると思いました。ほかのタクシー会社ではまず考えられない現象でしたから、差別化要因にできると考えたんです。

藤野 つまり、日本交通の過去を観察し、そこに資産が眠っていることを見つけたわけですね。