台湾生まれの3人が、アメリカで創業、日本に本社を置いて、世界中でビジネスを展開するイノベーティブな企業として知られるトレンドマイクロ。同社の一風変わった企業文化とマネジメントの秘訣を創業者が明かした『世界で闘う仲間のつくり方』から得られる教訓を、著者のジェニー・チャンと、トレンドマイクロの共同創業者であるスティーブ・チャン、エバ・チェン、ならびに、推薦者の野中郁次郎一橋大学名誉教授が語った。

中国式、アメリカ式、日本式のハイブリッド

野中 トレンドマイクロは台湾出身のあなた方3人によって、アメリカのカリフォルニアで創業され、日本で上場しました。つまり、中国式、アメリカ式、日本式のよい点をハイブリッドに総合したものだと考えられます。

エバ スティーブは日本の禅の話が好きです。半年ほど前、私が何をすべきか、彼に尋ねたところ、答えはこうでした。「じっとして、これから起こることを待っていなさい。何もする必要はない」と。私は「え⁉」と驚きました(笑)。

世界で闘う仲間のつくり方【後編】<br />「学習する組織」から知識創造企業へエバ・チェン[トレンドマイクロ 社長兼CEO] 1988年にトレンドマイクロを共同創業し、当初から技術責任者として経営に携わる。長年のCTO経験を経て2005年に社長に就任。

 半信半疑だったものの、彼の言う通りにしていたら、今から3ヵ月ほど前に彼の言いたかったことが突然わかったのです。備えを万全にしておき、周囲をじっくり観察し、物事の意味をじっくり考える。何かの兆候が現われれば、迷わずそれに乗ればいい。意識を覚醒させ、心を穏やかにしておけば、乗るべき波が見分けられる、というわけです。無理に進もうと思うと、波は崩れ、自分も前に進めなくなってしまうと。これは禅でいうところの「自由エネルギー」を使うやり方で、考えてみれば当たり前のことです。

ジェニー スティーブは中国の道教にも深い関心をもっています。特に老子です。全宇宙をエコシステムと捉え、それを導く根本原理を探るのが老子の教えです。人間はあまりにちっぽけな存在ですから、エコシステムに逆らうことはできません。

 中国式、アメリカ式、日本式のハイブリッドというのはまさにその通りだと思います。私たち3人はアメリカの大学院を出ていますが、生まれは台湾です。台湾は中国の伝統や歴史、文学を保護してきましたから、文化大革命を経験した中国本土の人たちよりも、中国人としての純度が高いはずでしょう。そして、株式公開は日本で行いました。

 まさに中国、アメリカ、日本の手法をブレンドしてつくりあげたのがトレンドマイクロなのです。中国式、アメリカ式、日本式のどれでもない、その3つがうまく融合したトレンドマイクロ式です。

 エバが先ほどお話した企業の継続性を最終的に担保するのは人間性です。どんな変化が起こっても、会社がどの方向に向かっても変わらない人間性にわれわれはフォーカスします。経営の効率性を高めるために、リストラが必要だ、と誰かに言われたとしても、われわれはそうした助言を聞き入れないでしょう。それがわれわれの企業文化の中核にある考え方です。