好調な米国の住宅市場に投資できる
「住宅ローン信用保険市場」とは?
先週は、米国の住宅市場が、景気回復や失業率の低下、連邦準備制度理事会(FRB)の低金利政策による住宅ローン金利の低下などを背景として、順調に回復していることを解説。さらに、そこに投資する方法として、宅建業者の株を買うというやり方を紹介しました。
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今回は、先週に続いて米国の住宅市場に関連する投資アイデアとして、「住宅ローン信用保険市場」に焦点を当てます。
住宅ローン信用保険(mortgage insurance)は、銀行や住宅抵当証券の投資家など、「お金の出し手」を守る保険です。マイホームの購入者などの「借り手」を守る保険ではない点を、先ずおさえておいてください。
米国では賃貸で家賃を払うより
マイホームを買った方が有利
米国の税制では、住宅ローン金利は所得から控除できます。また、投資用でない自分が住む家を売却したときのキャピタルゲインは、25万ドルまで無税です。
こうした税制上の有利さに加えて、そもそも借家住まいよりマイホームの方が、コストが安いという点も見逃せません。
いま借家住まいの典型的アメリカ人は、収入の29%を家賃の支払いに充てています。ちなみに、過去25年の平均値は26%でした。一方、マイホームに住んでいる典型的アメリカ人は、収入の14%を住宅ローンの返済に充てています。ちなみに、過去25年の平均値は21%でした。
この二つの数字が何を意味するかというと、「今は低金利の関係で、住宅ローンを組んでマイホームを買ったほうが、借家住まいで家賃を払うより、ずっと有利だ」ということです。
しかし、現在のアメリカの持ち家比率は63.4%で、これはリーマンショック前のピークの69.5%から下がっています。
マイホームの方が有利なのに持ち家比率が下がっている理由は、頭金が用意できない人が多いからです。
米国で住宅ローンを借りるには
最低でも20%の頭金が必要
普通、アメリカでマイホームを買うときは、頭金として20%をマイホームの購入者が払う必要があります。
言い換えれば、マイホームの夢をかなえようと思えば、購入する家の代金の2割に相当するお金を、あらかじめ貯金することによって準備しておかなければいけないのです。
住宅価格は、上昇することもあるし下落することもあります。長期で見れば右肩あがりだけれど、ごく短期では、不景気や金利上昇などの理由で不動産の価値は値下がりすることもあるのです。
銀行が融資する際、家の購入代金全額、つまり100%を融資してしまうと、もし住宅価格が下がった時、すぐに担保価値割れを生じてしまいます。
それを避けるためのクッションとして、2割程度の金額を頭金としてマイホーム購入者に負担させれば、何かの理由でマイホーム購入者が住宅ローンを払えなくなっても、銀行はすぐに損をこうむらずに済みます。
このように、20%程度の頭金を積むということは、保守的で思慮深い取引を実行する上で重要な慣習なのです。
頭金20%を用意できない多くの若い人は
住宅ローン信用保険会社を頼る
しかし実際には、近年、借家の家賃の値上がりが激しかったので、ぜんぜん貯金できてない人が多いのです。とりわけ、ミレニアル世代と呼ばれる1980年から2000年までの間に生まれた若者層の中には、この準備が出来てない人が多くいます。
すると、「頭金20%を用意することはできないけど、マイホームの夢はなんとかかなえたい」という人たちの需要を充足するサービスが必要になるわけです。
そこで登場するのが「住宅ローン信用保険会社」です。
住宅ローンの借金を負っているマイホームのオーナーが、失業などの理由でローンを返せなくなったとき、住宅ローン信用保険会社が、住宅ローン未払い元本のうちの一部を銀行や投資家に対して支払います。
この保険があるので、銀行や投資家は、20%より少ない頭金しか用意できない借り手に対しても、住宅ローンをアレンジすることが出来るのです。その代り借り手は、住宅ローンの返済の他に、住宅ローン信用保険の掛け金(プレミアム)を払うことを要求されます。
トランプ大統領の就任により
住宅ローン信用保険市場から政府が撤退
住宅ローン信用保険は、基本、民間で行われているビジネスです。
しかし政治的な動機から、政府がこのビジネスに首を突っ込むこともあります。政府が住宅ローン信用保険を提供すれば、頭金を用意できない人への救済となり、人気が上がるというわけです。
実際、オバマ政権も連邦住宅局(FHA)を通じて、抵当貸付相互保険制度(FHA loan)を行ってきました。連邦住宅局は住宅都市開発省(HUD)の下部機関です。さらにオバマ政権は、去年、持ち家促進のため抵当貸付相互保険の掛け金(premium)を0.25%値引きし、0.60%にしました。
オバマ政権のこの行動は、賛否両論巻き起こしました。
たしかに、政府が住宅ローン信用保険を通じ保証をすれば、それは持家の促進につながります。しかしそれは、政府がリスクを肩代わりすることになり、モラルハザードを生みやすいです。しかも、最終的なツケは納税者に回ってくることはリーマンショックの例を見てもあきらかです。
これらの理由で、「政府がちょっかいを出すべきでない」と考えた米国民も多かったです。実際、トランプ政権は、オバマ政権の掛け金値引きを、さっさと撤回しました。
これは、ラディアン・グループ(RDN)、エッセント・グループ(ESNT)といった民間の住宅ローン信用保険会社にとって良いニュースです。
【ラディアン・グループ】
体質改善により優良顧客が増加
ラディアン・グループは、最大級の住宅ローン信用保険会社です。同社の保有契約高のうち88%が、リーマンショック以降に販売された保険です。
同社は、なるべく質の高い借り手と保険契約を結ぶべく体質改善に努めてきました。下はそれが実を結んでいることを示すグラフです。
ここでファイコ・スコア(FICO Score)というのは、個人の借り手の信用スコアを指します。クレジットカードの過去の支払い履歴、借入残高などから個人の信用力をランク付けするわけです。
300点から800点のスケールとなっており、750点以上が優秀(excellent)になります。つまり、上のグラフは、信用力の高い顧客の割合が増加していることを意味します。
このような保有契約内容の改善を受けて、格付け機関は最近、ラディアン・グループを相次いでアップグレードしています。
【エッセント・グループ】
大手金融機関から資本援助を受け、業容を拡大
エッセント・グループは住宅ローン信用保険市場で14%のマーケットシェアを持っています。
同社は、ゴールドマン・サックスならびにJPモルガン・チェースから資本の援助を受けており、下のグラフのように積極的に業容を拡大しています。
また、同社の場合も保険契約者の平均ファイコ・スコアは749であり、優良な借り手を相手にしています。
【まとめ】
トランプ政権により今後成長が期待できる
住宅ローン信用保険市場が狙い目
住宅ローン信用保険は、マイホーム購入の際、20%の頭金を用意することができない人のための保険です。トランプ政権になって、この分野における政府の役割は縮小される方向にあります。
それは、ラディアン・グループやエッセント・グループなどの大手民間企業にとって、競争が少なくなることを意味し、歓迎すべき展開です。
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