世界投資へのパスポート
2017年3月27日公開(2017年3月27日更新)
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「世界投資へのパスポート」

著者・コラム紹介

世界投資へのパスポート

広瀬隆雄 ひろせ・たかお
三洋証券、S.G.ウォーバーグ証券(現UBS証券)、ハンブレクト&クィスト証券(現J.P.モルガン証券)を経て、2003年、投資顧問会社・コンテクスチュアル・インベストメンツLLCを設立。長年、外国株式関連業務に携わっており、特にBRICsをはじめとした新興国市場に詳しい。米国カリフォルニア州在住。

広瀬 隆雄

トランプ大統領が推すヘルスケア・プランの頓挫は
マーケットが期待する税制改革法案にも影を落とす?
大型減税の前に、米好景気が腰折れするリスクも!

オバマケア代替法案の頓挫で
トランプ大統領の面目は丸つぶれ

 先週金曜日にあたる3月24日、オバマケアに取って代わる医療保険制度となる下院共和党ヘルスケア・プラン(=略してAHCA)が、一度も投票に付されることなく、放棄されました。

 その理由は、投票に先立ち下院共和党が票読み作業をしたところ、10票から15票ほど足らないので、否決される公算が高いことがわかったからです。

 反対派の説得に奔走したドナルド・トランプ大統領にとって、これは面目丸潰れの展開でした。また、下院共和党議員の総元締めであるポール・ライアン下院議長にとっても、痛い敗北です。

 ヘルスケア法案は、1)高騰する医療費を何とか抑えなければいけない、2)その一方でなるべく多くの国民が医療保険制度によって守られる必要がある、という矛盾する目的を充足させなければいけません。その関係で、誰が取り組んでも難しい法案と言えます。

 共和党ヘルスケア・プランが消えたので、当分の間、オバマケアが存続することになります。

下院共和党ヘルスケア・プランの挫折は
マーケットには良いニュース?

 下院共和党ヘルスケア・プランが早々に挫折したことは、ある意味、市場関係者にとって「良いニュース」だと言えます。なぜなら、市場関係者が待ち望んできたことは、「オバマケアをどう変える?」ということではなく、あくまでも税制改革だからです。

 税制改革は、30年に1度あるかないか、というような大事業ですし、今回の改革は、もしトランプ案が採択された場合、5兆ドルにものぼる大型減税になると言われています。

 ウォール街は減税が大好きです。だから市場関係者は、「オバマケアの改変などにかまってないで、サッサと税制改革をやって欲しい」と密かに願っていたのです。これ以上、医療制度改革に時間を浪費することなく、「次へ移れる!」ということは歓迎すべき事です

 3月24日の遅い午後、「下院共和党ヘルスケア・プランが放棄された!」というニュースが伝わると、マーケットが上昇したのは、そのような事情によります。

トランプ大統領が議員を説得できなかった事実が
今後の審議に暗い影を落とす

 ただ、3月24日の出来事は、「グッドニュース!」だけでは済まされないと思います。なぜなら、共和党の下院議員の中にはいろいろなグループが存在し、そのグループ間での意見調整は極めて難しい事が、今回の医療制度改革法案頓挫で浮き彫りにされたからです。

 トランプ大統領は「交渉術にかけては誰にも負けない」と自負してきました。しかし大統領直々の交渉にもかかわらず、今回、態度を変えた議員は皆無に等しかったです。

 これはトランプ大統領が「交渉とは、恫喝と懐柔によっておこなわれるもの」と思い込んでいることに起因するのかもしれません。

 大統領は、議員をクビにすることは出来ません。だから老獪な議員たちは、大統領が何を言おうが、それが自分にとってメリットがなければ、馬耳東風です。

 彼らの投票行動に働きかけようと思うのなら、ひとりひとりの議員の利害をちゃんと聞き入れ、妥協点を模索し、個々の説得を積み上げるという、粘り強い、根気のいる作業が必要です。

 しかし、トランプ大統領の場合、ほんの数週間、働きかけをした後で「もうこんな作業は面倒だ!」と投げ出してしまいました。これは、今後の連邦政府予算策定や税制改革法案の審議に暗い影を落とすと思います

利回り曲線を見る限り、
楽観的見通しの修正が必要か

 これまでトランプ政権は、「8月に議会が夏休みに入る前までに税制改革法案を成立させる」と語ってきました。

 しかし先週までの動きをみるにつけ、トランプ政権が意見調整に要する労力と時間を甘く見積もっていたことは明らかであり、投資家としては「もっと時間がかかる」という風に考えた方が無難だと思います。

 株式市場の参加者は、わくわくしながら税制改革を待ち望んでいるわけですが、あまのじゃくが多い債券市場の参加者は、もっとずっと悲観的なシナリオを持っています。

 下のグラフは、アメリカの国債である財務省証券の利回りを、短期(画面左端)から長期(画面右端)までずらっと並べた、いわゆる利回り曲線(イールドカーブ)です。

 5兆ドルの大型減税が、すんなりと成立するのであれば、それはキョーレツに景気刺激的であり、利回り曲線の勾配は急になる(=これをスティープニングと言います)と考えるのが自然です。

 ところが、先の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ後、長期金利は逆に下がっており、利回り曲線は寝そべってきている(=これをフラットニングと言います)ことがわかります。

 これは「景気の腰は、案外弱いぞ」ということを示唆しています。アメリカの景気が、それほど強くなく、税制改革法案も時間がかかるということになれば、大型減税が来る前に景気が腰折れるリスクも増してきます。

 このような状況では、ドルは上昇しにくいです。

【今週のまとめ】
エマージング・マーケットや欧州市場が見直されるシナリオも

 先週の下院共和党ヘルスケア・プランの頓挫が我々投資家に与えた教訓は、「立法プロセスには時間がかかる」ということだと思います。だから「ホイ来たドン!」でテキパキと大型減税が出来てしまうという妄想は、そろそろ諦めた方が良いと思います。

 ドルは上昇しにくくなるので、アメリカの投資家は、これまでのアメリカ一辺倒のスタンスから、もっと幅広く、世界に投資機会を求める態度に改めると思われます。その場合、エマージング・マーケットや欧州株が見直されるというシナリオもありうるでしょう。

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