民主党政権は、消費税の増税を柱とする社会保障と税の一体改革を推し進めている。しかし、相次ぐマニフェスト違反に身内からも異論が噴出し、政権は一枚岩ではない。一方で、それを追求する野党も、必ずしも足並みが揃っているわけではない。国会が紛糾の度合いを強めるなか、国民には本来議論されるべき明確な国家ビジョンが見えてこない。未曾有の大震災から1年を経てもなお、目先の議論ばかりを続けている政治家たちは、いかに「新しい国づくり」を目指すべきか。かつて自身の内閣で「美しい日本」をキャッチフレーズにし、国づくりの明確な姿勢を打ち出した安倍晋三・元首相が、今求められている国家の改革について提言する。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 編集長・原英次郎、小尾拓也 撮影/宇佐見利明)
なぜ「国の形」が見えてこないのか
民主党に求められる国家経営の観念
――相次ぐマニフェスト違反により、民主党政権の支持率は急落しています。野田内閣は、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革を推し進めていますが、党内からも異論が噴出し、一枚岩ではありません。こうした紛糾の背景にあるのは、本来政策論のベースとなるべき、「日本をこういう国にしたい」という国家観が、与党に欠如しているからのように思えます。現状をどう評価していますか。
3年前の衆院選挙では、「政権交代」をキャッチフレーズにした民主党が大勝し、政権を獲りました。私は総理・総裁経験者として、自民党が敗北した責任を痛感しています。
民主党には、小沢一郎さんをはじめ、かつて自民党の中枢にいた人たちが参加しています。彼らは、実現できないマニフェストであることをわかっていながら、それを掲げて政権を獲り、綻びが見え始めてからも政策転換をできずにいる。
自民党と民主党では、基本的姿勢において大きな違いがあります。端的に言えば、「保守政党」と「革命政党」という違いです。鳩山、菅内閣で顕著だったのは、「国家対市民」「企業対消費者」「経営者対労働組合」という対立構造を前面に出して、自分たちは常に批判する立場の側に身を置くという姿勢です。
発足当初の鳩山内閣が、自らを「革命政権」と位置付けていたことからもわかる通り、彼らの政治姿勢は、世の中を二分し、人々の憎しみを煽り、対立構造をつくって相手を打倒するというもの。給付の話はしても、分配する富をどうやって生み出すかは考えない。