
日米関税交渉は合意文書がなく「口約束だけ」という常識では考えられない事態に陥った。日本が、米国政府の機能低下に付き合ってしまった格好であり、「日本側の失態」と非難されても仕方がないだろう。なぜなら欧州委員会は、それなりにきちんと対応していたからだ。日本に圧倒的に不足していたことは何か。自国の利益を守るために何をすべきなのか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
トランプ関税交渉で犯した「日本側の失態」とは
日米の関税交渉で、これほど両者の認識の食い違いが表面化するとは――。7月23日にわが国が“合意”を発表した当初、既存税率が15%未満の品目は相互関税との合計で一律15%、15%以上の品目には相互関税を上乗せしないはずだった。自動車関税も27.5%から15%に引き下げられるというのが、わが国の認識だった。
ところが、トランプ政権の発表文書に、そうした記載はなかった。日本側は大慌てとなり、赤沢亮正経済再生担当相が急ぎ渡米し関係閣僚に確認したところ、「日本側の認識の通りに修正する」との回答を得たようだ。
しかし国際交渉に関して、このような事態はかなり異例だ。少なくとも合意文書を取り交わすべきだったのにもかかわらず、それを怠った、わが国の交渉は非難されても仕方ない。
一方、米国側にも大きな問題がある。トランプ氏の独走下、政府組織がそれを十分に捕捉できていないように見えることだ。言ってみれば、米国政府の機能低下が起きているのかもしれない。
わが国との貿易交渉についても、当初はベッセント財務長官が担当に指名されたはずだが、いつの間にか、ラトニック商務長官、グリア米国通商代表部(USTR)代表、ベッセント財務長官の3人が交渉の場に出てきた。しかも、3人は主張がそれぞれ異なり、情報共有もなされていなかった。米政権内で、どうもいろいろな人が恣意(しい)的にさまざまなことに口を突っ込んでいるようだ。
わが国政府は、そうした米国サイドの事情を十分に理解していたのだろうか。米国政府の状況を考えると、口約束だけでは十分といえない。合意文書の作成は、国益を守るために不可欠だったはずだ。
もっとも米政権は今のような状態が続けば、国際的な信用低下は避けられない。それは、米国にとって重大な問題になるだろう。
トランプ氏は、11月に南アフリカで開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を欠席すると表明している。国際社会にとって、トランプ氏が独断専行すると、米国といかに付き合うかが重要なポイントになるだろう。わが国が、自国の利益を守るために何をすべきなのか。