アップワークは、フリーランスと企業を結びつける
マーケットプレースを運営するITベンチャー企業
アップワーク(Upwork、ティッカーシンボル:UPWK)が、ナスダックにIPO(新規株式公開)することが決まりました。
アップワークは、ひとことで言えば「フリーランスのUber」です。つまり、フリーランサーと彼らを探している企業を、ウェブを通じてマッチングするマーケットプレース(取引市場)を運営しています。
専門知識を持つ人材に対して
需要と供給のミスマッチが発生している
こんにちのビジネス社会では、ナリッジ、すなわち専門知識が生産性を駆動しています。ウェブの発達で、専門知識を持つワーカーは、どこに住んでいるかに関係なく、その知識を生かしてリモートワークできるようになりました。
米国商務省経済分析局によると、アメリカの上位6都市が米国のGDPの26%を稼ぎ出しています。つまり、雇用主は大都市に集中しているということです。しかし、大都市の家賃は高騰しており、生活費もインフレに晒されています。生活コストを抑えるため、しぶしぶ遠距離通勤をしているアメリカ人も少なくありません。
また、ローカルな労働市場では、しばしば企業が探している専門知識を持つワーカーが不足している場合もあります。つまり、需要と供給のミスマッチです。これは「スキル・ギャップ」と言い直すことが出来ます。
さらに、出産後社会復帰を考えている女性のワーカーなどは、かならずしも9時から5時のオフィスワークを求めていません。育児をしながら仕事もできるようなフレキシブルな労働環境が求められているのです。
「フリーランス」は、米国の労働市場で
もっとも急速に成長している働き方
ハーバード大学のローレンス・カッツならびにプリンストン大学のアラン・クルーガーといった経済学者の研究では、過去10年にアメリカで創造された働き口の94%は、非伝統的就業形態、具体的には派遣、契約社員、自営請負業、フリーランサーなどでした。なかでもフリーランサーは、米国の労働市場で最も急速に伸びているカテゴリーです。
そもそも、専門知識を持つワーカーの仕事の大半はコンピュータの前に座って出来る仕事なので、ネットが普及した今日、リモートワークでもじゅうぶん対応できます。さらに最近では、Slack(スラック)のようなオンライン・コラボ・ツールも充実してきています。
こうした変化を反映し、リモートワークに従事しているワーカーは、2005年の180万人から2015年には390万人に増加しました。さらに、必要なときだけ必要な専門知識を持つフリーランサーを起用するという、いわゆる「オン・デマンド・ワーカー」は、加速度的に増えてゆくと見込まれています。
アップワーク運営のマーケットプレースは世界最大規模
1年間に37.5万人を47.5万社に紹介!
アップワークは、フリーランサーと企業をオンライン・マーケットプレース上で引き合わせるサービスを提供しており、雇う側と雇われる側の両方から対価をもらいます。その潜在市場規模は、役務対価(GSV)で5600億ドルと見込まれます。
2016年の段階で、フリーランサーの僅か15%しかオンラインで仕事を見つけることをしていません。したがって、アップワークのような存在が広く認知されることで、より多くのフリーランサーがこのプラットフォームに移ってくることが予想されます。
アップワークは、フリーランサーのマーケットプレースとしては世界最大です。同社の顧客は中小企業からフォーチュン500に入る大企業まで様々です。
2018年6月末で〆た1年間に、アップワークは延べ37.5万人のフリーランサーを延べ47.5万の企業に紹介しました。そこで実行された役務対価は、15.6億ドルでした。
アップワークは、専門知識分野のカテゴリーとして、「経理」「事務」「記事編集」「カスタマー・サービス」「データ分析」「グラフィック・デザイン」「ITサービス」「モバイル開発」「営業」「ソフトウェア開発」「翻訳」「動画編集」「ウェブ・デザイン」などを設けています。
フリーランサーがアップワークを利用するメリットは、
案件検索のしやすさや支払いに対する安心感
フリーランサーがアップワークを通じて仕事を見つけるメリットとしては、まずこのマーケットプレースに登録している企業がちゃんとした企業ばかりだという点です。
また、アップワークは、フリーランサーがフレキシブルな就業時間を選択することが出来るように、ウェブサイトの絞り込み条件などを工夫してあります。
さらに、役務対価は、雇用主からアップワークの設定したエスクロー(第三者信託)口座に先に払い込まれる仕組みになっており、「働いたのに会社側が役務対価を払ってくれない」などのトラブルを回避しています。
フリーランサーが役務提供した後、企業はその仕事ぶりにレーディングを付けます。高い評価を獲得したフリーランサーには、次回から声がかかりやすくなります。
企業がアップワークを利用するメリットは、
コスト削減や過去の仕事の評価が見られること
アップワークには、毎日1万人のフリーランサーが新規登録しています。新規登録者の80%が大卒で、そのうち34%は修士・博士号を取得しています。
企業がフリーランサーの募集告知をかけると、通常、23時間以内にニーズにピッタリ合致するフリーランサーを見つけることが出来ます。エージェンシーなどの中抜き業者を介さないため、企業にとってコスト節約になります。
さらに、フリーランサーの過去の仕事に対する評価が掲載されているため、安心して起用することが出来ます。
今後の成長戦略は、クライアント企業に対するサービス強化と
フリーランサーに対する魅力の向上
フリーランスの市場はまだまだ成長余地が大きいし、今後企業は一層フリーランサーに依存度を高めてゆくと思われます。
したがって、アップワークの目下の目標は、既存のクライアント企業との関係を強固にし、それらの企業がよりアップワークを通じて沢山の仕事をフリーランサーへと割り振る決断をするように、安心と効率性を高めることです。
また、これまでアップワークを使用したことがない企業を開拓することも重視しています。
一方、沢山のフリーランサーを確保するためには、アップワークのマーケットプレースが一番魅力あるマーケットプレースであり続けることが必要になります。
同業他社や従来型の人材紹介サービスなど
アップワークの競合は多い
アップワークの競合としては、フィーバー(Fiverr)、フリーランサー・ドットコム(Freelancer.com)などのオンライン・フリーランサー・プラットフォームが挙げられます。
それらに加えて、従来のテンプ・サービス企業であるアデコ、マンパワー、ロバートハーフ、さらにフリーランサーの斡旋が本業ではないけれどサービスの一環として、フリーランサーに声を掛けやすいリンクトイン、ギットハブが挙げられます。また、求人広告サイトのクレイグスリスト、キャリアービルダー、インディード、モンスターなどとも競合します。
つまり、アップワークは競争相手がたくさん居るということです。
アップワークは、フリーランサーと
クライアント企業の両方に課金するシステム
フリーランサーがクライアントの仕事を完了したら、アップワークはフリーランサーに対して従量制のサービス・フィーを請求します。最初の500ドルの役務対価に対しては20%のサービス・フィーを請求します。その次の9500ドルは10%、さらにその次は5%という風に請求額が多くなるほどフィーが低くなる設定です。
一方、クライアント側には、支払い処理フィーとして役務対価の2.75%を請求します。いわゆるサブスクリプション・モデルを好む顧客に対しては、毎月25ドルの定額料金を請求する代りに支払い処理フィーは免除します。
なおアップワークは、一部の大企業に対してエンタープライズ・サービス(大企業向けプラン)を提供しており、これは別の料金体系となっています。
アップワークは、アマゾンやネットフリックスのように
目先の利益より将来の成長を狙う戦略
アップワークの直近2年間の業績は、下の通りです。
現在は市場そのものが急成長しているので、なるべくマーケットシェアを取りに行く積極戦略を採っています。このため、研究開発費や営業・マーケティング費用を沢山使っています。
言い直せば、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)やネットフリックス(ティッカーシンボル:NFLX)同様、目先の利益を犠牲にし、売上高成長を取りに行く戦略を採用しているわけです。
【今週のまとめ】
フリーランス時代の流れにのった有望なビジネス
今後も首位を守りきれるかが課題
フリーランスは時代の流れです。アップワークは、ちょうどUberがライドシェアリングの市場でやったのと同じことをフリーランサーとそれを求める企業の間でやろうとしています。
このマーケットは競合他社が多いので、現在アップワークが首位とはいえ、その優位を保ち続けることができるかどうかわかりません。同社が利益を後回しにして成長戦略に力をいれているのはそのためです。
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