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なぜ米国議会の交渉進捗のために株式市場の急落が必要なのか?

【第286回】 2013年10月15日公開(2025年6月3日更新)
広瀬 隆雄
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【今回のまとめ】
1.債務上限引き上げ問題を巡る話し合い開始のニュースで先週の市場は高かった
2.しかしオバマ大統領は下院案をあっさり退けた
3.新しく上院案が練られているが、交渉は難航中
4.Xデーは、17日か、22日から31日の間
5.この間も米国政府機関の一部閉鎖は続いている
6.財政の三重苦はじわじわと米国経済に悪影響を及ぼす
7.ジャネット・イエレンが次期FRB議長に指名されたのは相場にプラス
8.交渉が前進するためには株式市場急落などのショックが必要

先週は債務上限引き上げ問題の対話開始で相場は高かった

 先週10月10日(木)に米国債務上限引き上げ問題を巡って下院共和党とオバマ大統領が話し合いを開始すると報じられ、ダウ工業株価平均指数が+323ポイント急騰しました。週間ベースではダウ工業株指数が+1.0%、S&P500指数が+0.75%と堅調でした。この中でナスダック総合指数だけが-0.4%とマイナスを記録しました。

下院案は頓挫

 しかし金曜日の引け後にオバマ大統領が下院案のほとんど全ての項目に対し不服を表明し、話し合いは物別れに終わりました。

 このため上院が下院案とは別の案をまとめることになりました。共和党の中では穏健派と言われるスーザン・コリンズ上院議員が中心となって、上院案がまとめられている最中です。民主党は「この際、歳出一斉削減の取り決めを白紙に戻せ」と主張しており、合意への道のりはいっそう険しくなった観があります。

 デフォルトの期限が迫ってきているので、急いで法案を通過させる必要があります。ちなみに米国財務省は10月17日前後に政府の手持ちキャッシュが底をつくと試算しています。これとは別に超党派政策センターによる試算では下のグラフのように最悪のシナリオでは10月22日、ベストのシナリオでは10月31日までにキャッシュがなくなると試算されています。

米国政府機関一部閉鎖は続く

 この債務上限引き上げ問題とは別に、10月1日から始まっている米国政府機関一部閉鎖は今も続いています。この政府機関一部閉鎖が長引いた場合、景気の足を引っ張る可能性があります。

既に始まっている財政削減も影響する

 米国政府は春ごろから歳出一斉削減を含む様々な財政削減を始めており、国際通貨基金(IMF)はそれらの財政削減措置がGDPの2.5%押し下げるとしています。

 つまり現在の米国経済は債務上限引き上げ問題、政府機関一部閉鎖問題、今春から始まっている一連の財政削減という三重苦に苛まれているわけです。

米国景気の先行きには楽観論が強い

 その割には米国の景気の先行きに関しては、楽観的な考え方が根強いです。

 その証拠にフェドファンズ先物の動きを見ると、まだ5月(青)より高い水準にあり、今後景気が強含むにつれて政策金利が引き上げられることを市場が織り込んでいる様子が見て取れます。なおグラフ中、「t」とは「タイム」の意味で、「t+12」は12カ月先、「t+24」は2年先、「t+36」は3年先という風に読みます。

オバマ大統領はジャネット・イエレンを次期FRB議長に指名

 先週、オバマ大統領は現在連邦準備制度理事会(FRB)副議長を務めているジャネット・イエレンをベン・バーナンキの後任に指名すると発表しました。なおこの指名は上院の投票で承認される必要があります。投票の時期に関しては、まだ明らかにされていません。

 ジャネット・イエレンは現在FRBが実施中の非伝統的緩和政策の枠組みを考案した本人です。このため切り上げ時が話題になっている債券買い入れプログラムに関しても、彼女は誰よりも良く知っているし、現状の政策の維持を主張しています。それは債券買い入れプログラムの縮小は、当分無いということを意味します。議会が迷走しているにもかかわらず、アメリカ株が大きく崩れていないのは、このためです。

 ジャネット・イエレンがベン・バーナンキの後を継ぐということは、FRBの政策の継続性という点では理想の展開です。なおバーナンキはFRB内部でコンセンサスを形成することに注力しましたが、イエレンはバーナンキほど全員一致にこだわらないと言われています。

株が高いうちは債務上限引き上げ交渉は進まない

 現在のアメリカの議会政治を見ると、下院は共和党、上院は民主党が支配しています。法案や予算を成立させるためには両院での承認が必要です。今は下院案を上院が、上院案を下院が否決すると言う風に、お互いにキャンセルし合う構造になっています。

 共和党は社会福祉政策などで政府予算が雪だるま式に膨張することを喰い止めることを主張しています。民主党はこれとは正反対に年金生活者、低所得者、老人などに対する手厚い保護を政策の柱とすることで有権者の支持を取り付けてきました。つまり両党の主張は根本的に真っ向から対立しているのです。

 個々の議員は党からのサポートで選挙に勝ち、議席を守っているわけですから、ちょっとの事では党派主義(パルチザンシップ)を改めようとはしません。

 この両党の頑な態度が崩れるためには、株式市場が急落するなどのショックが必要です。

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