日本放送協会(NHK)が、本部機能を担う放送センターを建て直し、新たな社屋の建設計画に乗り出したことがわかった。
現在の放送センターは、東京都渋谷区神南の8万2650平方メートルの敷地に、地上23階、地下1階建てで1973年に完成したもの。一般的なスタジオだけでも25を数える日本最大の放送施設だ。
NHKは、今後15年間をかけて新社屋の建設を計画。現在の場所に建て直すべきか、分散させて建設すべきかといったアンケートを職員に実施するなど、具体的な青写真づくりをスタートさせている。
老朽化が進み、手狭になっていることがその理由だが、職員からは「待遇を下げておいて、なぜ今やる必要があるのだ」と怨嗟の声が上がる。というのもNHKは昨年末、積み立て不足を理由に企業年金の一部を確定拠出年金にしたほか、退職金についても年金連動による減額を提案しているからだ。
背景には収支の悪化がある。受信料収入は、職員の不祥事が相次いだ影響で2005年度に支払い拒否が急増して急激に落ち込んだものの、08年度はそれ以前の水準近くまで回復していた。
しかし景気の悪化で払えない人が急増、生活保護世帯への全額免除も増えたため、受信料収入は再び減少傾向に転じ、「支出を抑える」(小丸成洋・NHK経営委員長)ほかないというわけだ。
こうした事情もあってNHKは、テレビ番組をインターネットで有料配信する「NHKオンデマンド」の展開や、大手商社が出資する番組商社を吸収合併したりといった収入源の拡大を図っている。
だがオンデマンドは、売り上げが1年間で見込みの10分の1と大幅な計画未達。番組商社も収支トントン。そんな調子だから、今年度の収入計画に関しても「達成は厳しい」(同)状況だ。
では、なぜそうしたなかで新センター建設をぶち上げるのか。NHK関係者は、福地茂雄・NHK会長が「実績を残したいのではないか」と見る。
福地会長は、不祥事で引責辞任し懸案となっていた海老沢勝二元会長らの退職金問題こそ、大幅カットで決着させたものの、それ以外の実績はなきに等しい。
といっても、アサヒビール元会長で放送には“素人”のため、ニュースや番組に関しては手が出せず、「わかりやすいものを手がけようとしたのではないか」(関係者)というのだ。
一部には、「経営陣が、素人の福地会長在任中に、懸案を一気に片づけようと利用している」(別の関係者)との見方もある。
いずれにせよ建設原資は「皆様の受信料」。すでに年金の穴埋めに使っており、今度は二番底が懸念されるこんな時期に巨額の費用がかかる計画までぶち上げる厚顔無恥ぶりにあきれるほかない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 NHK問題取材班)