「不適切にもほどがある!(ふてほど)」「はて?」「もうええでしょう」これらはいずれも、昨年の流行語大賞にノミネートされた言葉です。そして、予想以上に大ヒットし、若者も投資を始めた「新NISA」……多くの人が口にしたり、耳にしたりしたこれらの言葉には、ある共通点がありました。何だか分かりますか?(電通 シニア・マーケティング・ディレクター 佐藤真木)
「不適切にもほどがある!」で視聴者の強い共感を集めたセリフ
「不適切にもほどがある!(ふてほど)」「はて?」「もうええでしょう」……これら三つは、いずれも2024年の流行語大賞にノミネートされた言葉です。これらにはある共通点があります。
その共通点とは、「優れた『インサイト』があったこと」です。優れたインサイトとは、言い換えれば「人を動かす隠れたホンネ」。みんながモヤモヤと考えていたこと、誰かが言語化してくれると「ああ、それそれ!」となるような言葉ともいえます。
「不適切にもほどがある!」は昨年大ヒットした人気ドラマで、ドラマタイトルの略称「ふてほど」は、昨年の流行語大賞にも選ばれました。現代の、時に過剰ともなりがちなコンプライアンス社会において、私たちが日頃モヤモヤと感じていたけれど、言葉にして自覚できていなかった隠れたホンネを、明確なセリフとして言語化してくれた「インサイト」の宝庫だったからこそ、世の中の人々から強く共感され、大ヒットになったといえます。
ドラマでは、阿部サダヲさん演じる昭和のダメ親父が、1986年から2024年にタイムスリップしてきます。昭和の人間から見た2024年の現代日本は、不思議なことがたくさん。例えば、視聴者の強い共感を集めたのは、次のようなセリフの数々でした。
「頑張れって言われて会社休んじゃう部下が同情されてさ、頑張れって言った彼が責められるって、なんか間違ってないかい?だったら彼は何て言えばよかったの?」
「社員のやる気を削ぐのが、働き方改革ですか?」
「認定して終わりじゃ、しょうがないと思うけどね。これはパワハラとか、パワハラじゃなくてモラハラとか、細かく分類して解決した気になってるだけなんじゃないの」
いずれも、コンプラ意識が日増しに高まっていく現代社会の中で、私たちが、ふと感じたことがあるようなモヤモヤです。ただ、私たちはこれらの感覚や感情を誰に話すわけでもなく、なんとなく納得しきれない感じのまま、日々の業務に忙殺されながら、いつの間にか心の奥底に沈めてしまっています。その埋もれてしまった感覚や感情を、ドラマのセリフとして明確な言葉=インサイト、として表現してくれたからこそ、人々が強く共感したのではないでしょうか。