世界投資へのパスポート
【第380回】 2015年8月24日公開(2015年8月29日更新)
バックナンバー 著者・コラム紹介
広瀬 隆雄

米国の9月利上げの線が消えた!
これから始まる中国経済の鈍化で
金(ゴールド)が再評価される理由とは?

<今回のまとめ>
1.中国経済の減速が世界同時株安の原因
2.中国は低成長時代へ入ってゆく
3.米国の9月利上げの線は消えた
4.米中の政策協調が鮮明になれば、投資家のパニックは収束する
5.(金)ゴールドに妙味がある

世界同時株安の原因は
中国経済の減速への懸念から

 先週の米国市場はダウ工業株価平均指数が-5.79%、S&P500指数が-5.73%、ナスダック総合指数が-6.71%と急落しました。

 急落の引き金になったのは、中国経済の減速です。本連載では7月12日の「世界経済のけん引車である中国経済に変調の兆しで投資戦略を大幅変更。日本株はどうするべきか?」と題した記事で警鐘を鳴らしました。そして次の行動をとることをお勧めしました:

1.株式の比重を下げ、キャッシュを増やす
2.日本株は特にリスクが高いのでアンダーウエイトする
3.アップル、ゼネラル・モーターズ、スターバックスなど中国で人気のブランドを避ける
4.成長株を処分すること

 このシナリオ通り、中国経済は著しく減速しています。下は中国製造業購買担当者指数です。

 8月の速報値は、リーマンショック直後の2009年以来、最も低かったです。

 中国経済は世界のGDP成長の36%を稼ぎ出しています。したがって中国の成長率が下がると、世界全体の成長率も下がらざるを得ないのです。先週の世界同時株安は、こうした景気減速への懸念を反映したものだと言えます。

中国は低成長時代へ。
今後は「ストライキの件数」に着目せよ

 いま中国で起きていることは、第二次世界大戦後「奇跡の復興」を遂げたドイツ経済が、1968年から1971年にかけて経験した変化に酷似しています。

 第二次世界大戦で焦土と化したドイツは、工場を復旧し輸出を再開するだけで、ぐんぐん成長できました。終戦直後の失業率は、復員兵の働き場所が無かったので、14%にも達していました。

 つまり賃金をはずまなくても、必要な労働力は確保出来たということです。実際、ドイツの賃金は、欧州主要国の中で最低で、コスト競争力は最も強かったです。

 それに加えて、ヨーロッパ中の国々が、復興のためにドイツの鋼鉄や工作機械を必要としていました。つまり急成長できる条件が整っていたのです。

 しかし1960年代後半になると状況が変わってきます。それまでの「働けるだけでも、幸せだ」という考え方は消え、「なぜ自分たちは低賃金に甘えなければいけないのか?」という不満が出始めます。労働争議が増加し、ドイツの名目賃金は年率12%程度、ベースアップされます。当時のインフレが6%前後だったことを考えると、実質賃金上昇率は6%ということになります。これは労働コストが急ピッチで上昇していたことを意味します。

 これを受けてドイツの製造業の粗利益率は急激に低下しました。こうして1971年にドイツは実質固定相場を諦め、為替フロート制に移行するわけです。

 1950年から1971年までのドイツの年間平均GDP成長率は5.0%でした。1971年から2000年にかけての年間平均GDP成長率は2.1%に下がります。

 ひるがえって今日の中国を見ると、賃金の上昇で輸出産業の競争力は減退しています。メーカーの粗利益率は漸減傾向にあります。そこへ去年以来のドル高が追い打ちをかけたわけですから、人民元の切り下げは時間の問題だったわけです。

 中国政府は不景気が民心を乱すことを、何にも増して嫌います。その意味では最近のストライキの急増は、中国政府にとって景気のテコ入れは「待ったなし」の最優先課題になったわけです。

 逆の見方をすれば、今後も中国人民銀行がさらに人民元を切り下げてくるかどうかは、このストライキ件数の数字だけを追っていれば大体、見当がつくというわけです。

 このように現在の中国は、1971年に為替フロート制に移行したドイツと同じ境遇に置かれているのです。そのことは、今後、中国のGDP成長が、ちょうどドイツがそうなったように、それまでの半分程度のペースに落ちることを暗示していると思います。

米国の9月の利上げシナリオは消えた。
そろそろ打診買いをすべき局面に

 このように中国経済は今、歴史的な転換点にさしかかっており、世界はこの危なっかしい局面を一致団結することで切り抜ける必要が出てきました。そのことは米国の9月の利上げというシナリオは、もう消えたということです。

 米中が金利政策で協調し合うことで難局を切り抜けるという姿勢が示されれば、世界の投資家のパニックは収まると思います。つまり今はそろそろ打診買いをすべき局面なのです。

 ただ上に述べてきたようにこれまで世界経済を引っ張ってきた中国が構造的な低成長期へ入ってゆくわけですから、これは多方面に影響を及ぼします。だから能天気な強気スタンスは禁物です。慎重に、状況を見極めながらの打診買いに徹するべきです。

 今後、どれだけ中国経済が鈍化するかわかりませんし、上に述べたようにストライキが頻発するようなら人民元はさらに切り下げられると思うので、そのシナリオでは米国の利上げはズルズル先延ばしになります。これはゴールドにとって朗報です。銘柄としてはゴールドコープ(ティッカーシンボル:GG)が最も堅実なバランスシートを誇っています。
 

【2017年9月6日更新!】

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