<今回のまとめ>
1.2020年夏季オリンピックの経済効果は過大評価されすぎ
2.インバウンド観光は増えない
3.大型ディールは需給悪化要因
4.ていねいな仕事をしないと、相場自体を壊してしまう!
利益相反の無い傍観者の立場から見ると
日本株には強気になれない理由
私は1986年に日本の証券会社に入り、日本株を外人投資家へ売る仕事を1年ほどやった後、すぐ外国株に鞍替えしました。だから日本株については皆さんより素人です。
それを断った上で、日本株に対してなんの利益相反も無い、傍観者の立場から観察すると(これって、ちょっとヘンじゃない?)と感じることがあります。そこで今日はそれらについて書きたいと思います。
2020年夏季オリンピックの
経済効果への期待は過大である
第一番目の懸念は2020年夏季オリンピックが日本にもたらす経済効果が、過大評価されているという懸念です。
東京オリンピックの予算は約7100億円です。これはオリンピック競技大会組織委員会、略してOCOGが東京にオリンピックを招致する際に提出されたプロポーザルの公式な数字です。
7100億円という金額は、東京駅の前に建った新丸の内ビルディングの約8個分です。
この予算をハコモノ(緑)とそれ以外の運営費用(青)に分けて示すと、下のようになります。

ハコモノは約3800億円です。没になった新国立競技場の建設にかかる費用は2520億円と言われていましたが、それは当初予算では1300億円で組まれていました。つまり1000億円以上、当初予算より増えてしまったのが、仕切り直しになった一因というわけです。
なお、オリンピックのコスト・オーバーランは別に東京に限ったことではなく、過去のどのオリンピックでもフツーに見られた現象です。だから経済効果を計算するにあたって、そもそもその計算根拠になる予算自体が、1000億円や2000億円は簡単に狂って来るということをまず断っておきたいのです。
東京と一番似ている
ロンドン五輪を参考に試算をしてみた
さて、問題の経済効果の試算方法ですが、同じ先進国での開催で、しかも東京と同じ、コンパクトな五輪を目指したロンドン・オリンピックの事例が、いちばん参考になると思います。
ロンドン五輪の経済効果については、シンクタンクのオックスフォード・エコノミクスというところが詳細なスタディを残しています。それによると経済効果は建設費用、つまりハコモノについては×3、それ以外の運営費用に関しては×2をすれば、おおよその経済効果が試算できることがわかっています。そこでそれらを当てはめて計算された経済効果が、下のグラフになります。

緑のハコモノ部分が1.15兆円、青のそれ以外の部分が6600億円、合計で1.81兆円というわけです。
1.81兆円という金額は、日本のGDPの0.36%に過ぎません。つまり取るに足らないインパクトだということです。
オリンピックを契機とした
インバウンドの観光は増えるのか?
次にオリンピックを契機として日本が世界から注目され、インバウンドの観光が増えると期待する向きが多いですが、なるほどオリンピック開催年は訪日客が増えるものの、オリンピックが終わってしまえばすぐに観光客の足は遠のくと予想されます。
これに関しては欧州ツアー・オペレーター協会という組織が過去のオリンピックに関して追跡調査しています。

それによると、オリンピック開催がその後の開催国の観光に長期的なメリットをもたらすという推論は否定されています。もっと言えば、インバウンド観光は、増えなかったのです。
11月4日上場、日本郵政3社の
大型ディールで日本株の需給は悪化へ
さて、9月10日には、いよいよ日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社のIPO(新規株式上場)が上場承認される予定です。実際の上場日は11月4日がターゲットになります。調達金額は1兆円を超えると言われています。
巨大ディールは常に不確実性に満ちていますし、一つ間違えば大失敗のリスクもあります。一例として、近年ではフェイスブック(ティッカーシンボル:FB)のIPOが、コンピュータがパンクして、惨憺たる失敗に終わったケースが思い出されます。
私は、世界の民営化の案件に、マーケティングする側の立場で、数多く携わってきました。
その経験から言わせてもらうと、3つのディールを同時進行でやっつけてしまおうというのは狂気の沙汰に近いです。
さらに言えば郵政3社は、いわば国民の財産なのだから、それをこんな乱暴なスケジュールでハメコミしようとするのは、国民に対する背信行為に近いとすら感じます。
もっとしっかりスケジュールを練り直し、ていねいな仕事をしないと、せっかく近年、元気を取り戻してきた日本株の、相場自体を壊してしまうのではないでしょうか?
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