<今回のまとめ>
1.銀行の決算が相次いで発表されている
2.米国の消費者は健全だ
3.石油・天然ガス業界ではたぶん倒産が起きる
4.石油・天然ガス業界への貸付は全体の1.9~5.6%程度
5.貸付けは個々の案件ごとに審査している
6.過剰反応は慎み、チャンスを狙え
銀行決算で明らかになった
米国の景気の実態とは?
先週からアメリカは決算発表シーズンに突入しています。すでにJPモルガン(ティッカーシンボル:JPM)、ウエルズファーゴ(ティッカーシンボル:WFC)などが決算を発表しています。
今回の決算発表は、世界の株式市場が軟調な中で行われているので、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOとウエルズファーゴのジョン・スタンプCEOという金融界で尊敬されている経営者から決算カンファレンス・コールで直接考えを聞くことが出来る良い機会でした。
金融界のリーダー2人は
「米国経済は安泰だ」と楽観的
結論から言えばジェイミー・ダイモンもジョン・スタンプも楽観的でした。
米国経済の8割は消費から成り立っています。だから消費者の動向は極めて重要です。これに関しては両CEOともに、高水準の雇用創造、低い失業率、賃金が上がりはじめていること、消費者が家計の負債の圧縮につとめてきたこと、などにより「危険な兆候は見られない」と意見の一致を見ました。
下はJPモルガンの住宅ローンとクレジットカードの損金計上のトレンドです。

歴史的に低い水準になっていることが読み取れます。
ウエルズファーゴは消費者とスモール・ビジネスを上得意の顧客としています。貸付け資産の内容は依然、改善基調です。

スタンプCEOは「最近のガソリン代の下落で消費者はラクになっているが、その分をすぐに消費に回すのではなく、借金の返済に回しているフシがある」とコメントしていました。

つまり消費者のフトコロ事情は、至って健全なのです。
もちろん、投資家が今心配しているのは消費者ではなくて、石油・天然ガス業界への貸付です。米国のシェール企業の採算ラインは原油価格にして50ドル前後なので、現在の30ドル割れの原油価格では倒産する企業も出てくると思われます。そこで次はそれを見ることにします。
石油・天然ガス業界への貸付は少なく、
リーマンショック時と状況は異なる
まずメガバンクの石油・天然ガス業界への貸付は下のグラフのようになっています。

銀行によって石油・天然ガス業界の定義には若干差異があります。しかし同業界への融資は1.9%~5.6%程度であり、比率としてはそれほど大きくないことがわかります。
2014年の石油・天然ガス業界全体のシンジケート・ローン借入総額は約2400億ドルでした。これに対し米国の一戸建て住宅の住宅ローンの残高は9.4兆ドル、集合住宅まで含めたローン残高は13兆ドルもあります。
だから石油と天然ガス価格の下落で「次のリーマンショックが起こる」と主張するのは、少し大袈裟だということがおわかり頂けると思います。
石油・天然ガス企業への融資は
有担保で、かつ個別に精査されている
JPモルガンのダイモンCEOは「同業界への貸し付けは全て有担保の融資であり、与信に際しては個々の案件ごとに資産の担保価値を精査している」と説明しました。
これはリーマンショックの引き金となったサブプライム問題の発生時とは好対照を成しています。
当時、サブプライム問題が表面化した際の問題として、小口のローンは証券化され、リスクに応じて「輪切り」にされた上でパッケージされ直し、転売されるという経緯がありました。
それは投資家がどのような資産が証券化商品のその中に混じり込んでいるかをよく理解せず、ただ格付け機関の言う事を鵜呑みにして投資するという状況を生みました。それが破綻した場合、権利関係をほぐす作業は困難を極めました。
今回は貸し手と借り手はお互いを良く知っているし、仮にシェール企業が潰れてもすぐに実物資産を差し押さえることが出来ます。
ウエルズファーゴの場合、石油・天然ガス業界への貸付のうち1億ドル(0.6%程度)を今回、損金計上しました。また8億ドルを「支払い遅延ローン」に分類しています。実際にはこの8億ドルの融資はちゃんと支払いが行われているそうです。しかし将来、ひょっとするとそれらの企業は支払いに困るかもしれないということを予期し、慎重には慎重を期す意味で、すでに「支払遅延ローン」に分類したというわけです。
こうして考えてくると、今後石油・天然ガス業界で倒産が相次いだとしても、それが金融市場に与える影響は限定的だということが見えてきます。
ひるがえって現在の市場参加者の反応を見ると、付和雷同的な過剰反応が多いです。石油・天然ガス企業の中にはバランスシートがしっかりしていて倒産するリスクが小さい企業も多いです。いまはそのような優良企業の絶好の仕込み場だと思います。
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