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ドイツ銀行への不安で揺れる世界の株式市場、ココ(CoCo)債や米司法省への罰金問題、経営体質などドイツ銀行の3つの問題を解説!

【第438回】 2016年10月3日公開(2022年3月29日更新)
広瀬 隆雄
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 先週、ドイツ銀行(米国でのティッカーシンボル:DB)に関して不安が出て、世界の株式市場が振り回されました。



 そこで今回はドイツ銀行の問題の本質を考えてみることにします。

ドイツ銀行のバランスシートは、本当にやばいのか?

 まずよく噂になっている「ドイツ銀行のバランスシート(貸借対照表)は、本当にやばいのか?」という点について検証します。

 結論から先に言えば、ドイツ銀行の自己資本比率は、全ての基準(*)をクリアしています。

 下はそれらの尺度のひとつ、リスク加重総資産に占めるティアワン・コモン・エクイティー・レシオです。なおティアワン・コモン・エクイティーとは「中核的普通株主自己資本」と訳される場合があります。

 この数字は高い方が好ましいです。これで見るとドイツ銀行は世界の主要金融機関の平均(12.9%)より高いことがわかります。

自己資本の一部を調達していたココ(CoCo)債の問題点とは?

 強いて言えば、ドイツ銀行は、他の欧州の金融機関の一部がそうであるように、自己資本の一部をココ(CoCo)債と呼ばれる社債で調達しています。これが問題視されています。

 ココ債とは、自己資本比率が一定水準を下回るなど、引き金となる条件が満たされたとき、発行体(=この場合ドイツ銀行)の意向で、株式に転換できる社債を指します。CoCoはContingency Convertibleの略で、コンティンジェンシーとは「なにかあったとき」、つまり「有事」という意味です。コンバーチブルは「転換できる」という意味です。

 したがって有事にはドイツ銀行の一存で株式に転換できるような社債というわけです。

 ドイツ銀行がココ債を出したとき、債券市場の投資家は、ほんの少しそれが利回り面で有利だったので、喜んでそれを買いました。

 ドイツ銀行からすれば、ココ債は株式市場の投資家が株主資本利益率(ROE)を手掛かりに投資判断する際、株式の発行による資金調達とはみなされないので、ROEを高く見せる効果がありました。

 監督当局からすれば、「有事には銀行側の意思で強制的に株式に転換できるのだから、自己資本の増強は、出来たも同然だ」とみなしました。

 このように誰から見ても、いいことずくめの社債だったのです。

 しかし今回、ココ債が問題になったのは(ひょっとしてドイツ銀行はココ債を株式に転換するのではないか?)という観測が出たからです。その場合、発行済み株式数が増えて希釈化が起こるわけです。

特に債券の投資家は、ダラダラ下がるドイツ銀行の普通株式なんかもらったところで、迷惑以外の何物でもないので、(そんなことなら、面倒なことにならないうちにココ債を処分しておこう)というキモチが働き、ココ債を処分しました。

 一方、株式の投資家は(ココ債が下がっている……これはココ債が株式に強制転換されて、株の供給が増える予兆ではないか?)という不安が走り、ドイツ銀行の普通株を売り叩いたわけです。

 つまりココ債の下落とドイツ銀行普通株の下落が、ある種の相乗効果を生んで、スパイラル的な下落を演じたというわけです。

米国司法省に対する罰金140億ドルはあくまでも最初の提示金額

 このドイツ銀行の経営不安を増幅した問題に、米国司法省に対する罰金の支払いがあります。これはリーマンショックの起こる前、住宅抵当証券の販売に、強引なところがあったとして、司法省がドイツ銀行だけでなく、世界の住宅抵当証券のディーラーに対して罰金を科したことにさかのぼります。

 すでにバンク・オブ・アメリカなどの米銀は、司法省との示談が成立しています。だから順番として司法省は次に欧州の金融機関との交渉に移っているというわけです。たまたまその順番がドイツ銀行に回ってきて、司法省は交渉の口火を切る最初の提示価格として140億ドルの罰金を提示しました。

 この140億ドルという罰金の提示価格が、アナリスト達が予想していた金額より多かったので、折からくすぶっていたドイツ銀行のバランスシート不安問題に「火に油を注ぐ」結果になってしまったのです。

 しかし140億ドルという金額は、あくまでも交渉をすすめる上での最初の提示額であり、最終的にはもっと低い金額に「着地」すると予想されます。実際、先週金曜日には「54億ドル程度で済むのでは?」という観測が流れ、それに勇気づけられてドイツ銀行の株価は一時+14%も急騰しました(これを書いている現在、確報は入っていません)。

 ドイツ銀行は、訴訟費用として予め60億ドルの引当金を取ってあります。だからそれ以内に収まれば、自己資本の毀損(きそん)は無いわけです。

 ここまでの話をまとめると「なんだかんだ言って、結局、ドイツ銀行のバランスシートは、特別悪いわけじゃない」ということです。

ドイツ銀行の問題点は低い収益性、高コスト体質

 むしろドイツ銀行にとって問題なのは、慢性的な低利益率と、高コスト体質だと思います。

 銀行の収益性の尺度としては、総資産利益率(ROA)がよく引き合いに出されます。

 この数字は高い方が好ましいです。するとドイツ銀行は世界の主要銀行の中で、最も儲かっていないことがわかります。

 その一因は、ドイツ銀行のコスト比率が高すぎる点に求めることが出来ます。

 要するに「儲かってもいないのに、お給料やボーナスばかり高い」わけです。あるいは「余剰人員が多い」のが原因と見る事も出来ます。

 実際、ドイツ銀行の投資銀行部門の報酬体系をみると、他行に比べてストック・オプションなどの株価に連動する部分の比率が低く、サラリーのような「固定」の部分が大きいです。このことは行員が自社の株価に余り頓着(とんちゃく)しない、「ぬるい経営」の温床となっているわけです。

マネー・ゲーム的経営では国民の共感は得られない

 最近、ドイツで行われた世論調査で、圧倒的多数が「政府がドイツ銀行を救済して欲しくない」と答えたそうです。つまりドイツ銀行は国民から愛され、尊敬される存在では無くなっているのです。

 ドイツ銀行は最後まで債券トレーディングに傾斜した経営戦略を堅持してきて、それがマネー・ゲーム的な経営をやっているという批判を生みました。

 新しいCEO、ジョン・クリアンは、ドイツ銀行のトレーディング依存体質からの脱却を図っています。しかし、一体、どのようなビジネスに同行の将来の成長を求めるのか? という命題に関しては、いまのところ株主の納得するような方向性は示せていないと思います。

 成長が出来ないのであれば、せめてコストを抑えるため、ドイツ銀行はどんどん小さくなるべきです。

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