糖尿病患者とその予備軍の増加が止まらない。その背景にはいったい何があるのか? そして、もし糖尿病に向き合わざるをえない日が来たとしたら? イザというときあわてないための心構えを、日本糖尿病学会の理事長で東京大学大学院の門脇孝教授がわかりやすく解説する。

日本人は体質的に
糖尿病になりやすい

 日本人の糖尿病増加の背景にあるのが、まず、欧米型の脂肪分の多い食生活の普及と運動不足による内臓脂肪の蓄積です。内臓脂肪が増えると、血糖値を抑えるために膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンの働きが悪くなります。これを「インスリン抵抗性」といい、糖尿病発症の引き金となります。

門脇孝氏
門脇 孝(かどわき・たかし) 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授。東京大学医学部卒業。同大学付属病院第3内科入局後、米国国立衛生研究所客員研究員、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授を経て、2003年から現職。(社)日本糖尿病学会理事長

 もう一つ、これに加えて強調すべきなのが、欧米人に比べてインスリン分泌が約2分の1という日本人特有の体質です。農耕民族であった日本人はほとんど肉を食べない生活を送ってきたので、狩猟民族であった欧米人ほど多量なインスリン分泌を必要としていませんでした。実際、戦前においては糖尿病にかかる人はそれほど多くありませんでした。

 ところが戦後60数年のあいだに、エネルギー摂取量はほとんど変わらず、肉や乳製品など脂肪の摂取量は約4倍に増えました。この欧米型の食生活への変化に、日本人のインスリン分泌機能が適応できていないことが、糖尿病激増の大きな理由になっていると考えられます。

 このため日本人の場合、欧米型の顕著な肥満でなくても、内臓に脂肪がたまった「かくれ肥満」やBMI(肥満度)が25程度の小太りの人でも、容易に糖尿病を発症しやすくなっているのです。

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 ヒトの膵臓からは、常時少量のインスリンが分泌されています。これを「基礎分泌」といいます。また、食事を取ると血糖値が上昇するので、上昇分に見合ったインスリンが一時的に分泌されます。これを「追加分泌」といいます。基礎分泌と追加分泌が適切に組み合わされて、血糖が正常にコントロールされるわけです。糖尿病は肥満などが原因でこのバランスが崩れ、高血糖状態が慢性化することで起こります。