秋田のナマハゲ写真はイメージです Photo:PIXTA

鬼に似た異形の仮面を付け、藁でできた衣装を纏い、家々を訪れて作り物の刃物を振りながら「泣く子はいねがー」が叫ぶ、ナマハゲ。ユネスコの無形文化遺産に登録されるほど有名な秋田の民俗行事だが、実はこの行事に隠された狙いが「防災機能」であることはあまり知られていない。こうした伝統行事の多くが衰退し、人と人とのつながりが希薄になった今、私たちはどのように地域のコミュニティを作っていけば良いのか。※本稿は、古見彰里『公共の未来 2040年に向けた自治体経営の論点』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。

秋田の「ナマハゲ」が
地域社会で果たす役割

 実は「祭り」と「防災」には密接な関係がある。その好事例の1つが、秋田県男鹿半島周辺に伝わる「ナマハゲ」である。全国的にも有名な祭事で、2018年には「男鹿のナマハゲ」を含む8県10行事が「来訪神:仮面・仮装の神々」として国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されている。

 毎年大晦日の夜、各集落の青年たちが様々な面を被ってナマハゲに扮し、「泣く子はいねがー、親の言うごど聞がね子はいねがー」「ここの家の嫁は早起きするがー」などと大声で叫びながら地区の家々を巡っていく。ナマハゲというのは怠け心を戒め、無病息災・田畑の実り・山の幸・海の幸をもたらす来訪神のこと。ナマハゲを迎える家では昔から伝わる作法に従って料理や酒を準備して丁重にもてなすのだが、ナマハゲが座り込んで家長と会話するシーンをテレビ報道などで目にする機会は少ない。

 ナマハゲは「ナマハゲ台帳」と呼ばれる冊子を懐から取り出すと、この1年間に調べ上げた家庭の事情などを家長に質問していく。子供のいる家、新しくお嫁さんが来た家の関係者などから事前に情報を集め、「ナマハゲ台帳」に書き留めておき、当日この台帳を基に問題点を指摘する。「神々は近くの真山から村を見下ろし、どの子が泣いたり親の言うことを聞かなかったりしたのか、どの村人が仕事を怠けているかなどを見ている」というわけだ。そしてナマハゲは家長に対して、「どんなに真実を隠そうとしてもすべてお見通し。生活を戒めなさい」と伝えるのだ。

「ナマハゲ台帳」は
災害時に威力を発揮

 この行事に隠された狙いが防災機能であることはあまり知られていない。「ナマハゲ」役になる若者たちは、消防団や自主防災組織に所属していて、災害時にはそのメンバーとして活動に取り組む。「ナマハゲ台帳」のメモは、災害時に支援が必要となるような住民の情報であり、コミュニティーの災害対策に役立つ有益な情報となる。つまり、コミュニティーの防災活動のための仕組みが祭事に組み込まれているというわけだ。