
4月11日、肥満症治療薬(注射剤)の「チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド皮下注)」が発売された。高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかがあり、(1)BMI(体格指数)が27以上で、二つ以上の肥満に関連する健康障害がある、(2)BMIが35以上のいずれかに該当する肥満症患者が治療対象だ。
肥満“症”は、BMIが25以上かつ以下にあげる11の合併症が一つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある状態を指す。
11の合併症は、2型糖尿病(前段階を含む)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、虚血性心疾患、一過性の虚血発作を含む脳卒中といったおなじみの病気のほか、非アルコール性の脂肪性肝疾患、月経異常・女性不妊、睡眠時無呼吸症候群、膝・股関節の変形・障害、肥満関連の腎臓病など、筋骨格系を含む全身におよぶ。
食事・運動療法を試み、効果が得られない場合は薬物療法が選択肢となるのだが、こう書くと「肥満は自己管理能力がない人がなるものだ。自己責任だ!」と中傷する声が出てくる。
しかし、肥満の背景には遺伝的要因のほか、昼夜逆転の激務やストレスなどで手間暇をかけた食事を摂る余裕がない環境など、個人の意思や裁量ではどうしようもない状況がある。
慶應義塾大学の研究グループは、2015年度に全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していた35~69歳(1950年~80年代生まれ)の男女およそ815万人分のデータ(女性は4割)を5歳刻みで14の集団に分け、体重、身長およびBMIの推移を15~20年度まで追跡している。
その結果、1年あたりのBMI変化量は全ての集団で「プラス」だったのだ。さらに同じ年齢時点で比較すると、食生活が西洋化した60年代生まれ以降の集団では体重が明らかに増えており、今後、日本でも肥満や肥満症が増えていくものと推測された。
実際、すでに40~60代の男性の3人に1人はBMIが25以上の肥満だ(厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」)。肥満症は治療の対象となる慢性疾患であると認識を改め、合併症が進行する前に医療的なサポートを利用する意識を持とう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)