『宰相不在――崩壊する政治とメディアを読み解く』上杉隆[著]定価1500円(税込) |
上杉隆氏に、「ダイヤモンド・オンライン」での連載執筆を依頼したのは、参院選で自民党が歴史的大敗を喫し、海の向こうでサブプライム問題が騒がれ出した、ある猛暑の日だった。上杉氏は安倍政権の断末魔を活写したベストセラー『官邸崩壊』をちょうど脱稿した頃で、安倍内閣の末期症状について話が盛り上がったのを覚えている。
連載は、安倍首相がついに政権を投げ出し、福田首相が就任して間もない2007年10月から、“週刊”というスタイルで開始された。
ウェブというメディアの特性上、原稿を書き上げてから公開するまで、早いとほんの数十分後ということもある。締め切りを過ぎても待てど暮らせど上杉氏の原稿が来ないという根本的な問題はさておき、そのウェブ的スピード感が、ある意味、この連載の身上である。新聞以上の速さで現在進行形の政界の動きを俎上に載せ、仮借ない批判を展開する上杉氏の連載は、永田町にも読者が多い。
テーマは時にスポーツや社会問題にも及んだが、書籍化するにあたり、政治がテーマの文章を中心に選んで掲載することとなった。
改めて本書を通読すると、福田政権の慌しい発足から唐突な辞任、麻生総理の鳴り物入り就任から急失速に至る、この一年余りの政治の混乱が通観できる。そこから炙り出されるのは、国民を置き去りにして政争に明け暮れる政治家の無為、無責任に他ならない。
各章の最後に、上杉氏が今の視点から本文を振り返る、「追記」を記した。時間の流れを経て、執筆当時には結論の出ていなかった争点での、上杉氏の読みの正しさが際立つ。
とくに麻生内閣解散日の各紙の観測記事に対して、当初から解散は無いと喝破していた上杉氏の正しさと、新聞報道の虚妄が明らかになった点などは象徴的だ。上杉氏の標的は、政治家や官僚だけにとどまらず、記者クラブ制度に胡坐をかき、政治と共犯関係にある巨大マスコミも鋭い批判の対象となる。
政治は今も混迷のさなかにある。「政局より政策」「まずは景気だ」の掛け声も虚しく、国民の政治への信頼は日に日に揺らいでいる。未曾有の経済危機にも関わらず、目先の党利党略しか考えない政治家が、日本崩壊を後押ししているという怒るべき事実が、本書を読めば、より明確に見えてくるはずだ。
この国の“宰相不在”は、一体いつまで続くのだろうか。
(ダイヤモンド・オンライン 田上雄司)