三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから紐解く連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第136回は、生保レディも苦戦する「保険になかなか入らない人」の特徴を解説する。
生保レディの「GNP」攻勢とは?
主人公・財前孝史の自宅を突然訪問した生保レディの安ヶ平真知子は、家族へのプレゼント攻勢で敏腕外交員の凄みを見せる。札幌市内の学校、官公庁、企業などあらゆる場所に営業に回る真知子は、名前を聞けば「どこのあの人」と顔が浮かぶのが自分の最強の武器だと語る。
東京証券取引所の職員によるインサイダー事件が波紋を広げている。市場運営者が禁忌を犯した衝撃は大きく、情報管理と倫理が厳しく問われるのは当然だろう。
もっとも、30年ほど前を振り返ると、東証のもろもろの管理体制は恐ろしくルーズだった。当時は東証の入口にセキュリティーはなく、各フロアも基本はオープン。機密情報はそれなりに管理されていただろうが、外部の人間が侵入するのはさほど難しくなかった。
私が記者になった1995年当時、兜町の東証のビルの8階にあった記者クラブ「兜倶楽部」には、某生保の外交員の女性がマスコミ各社のブースまでズケズケと入り込んでいた。
社会人1年生だった私もいわゆるGNP(義理・人情・プレゼント)の標的になった。こちらも余裕がないので、ときに煩わしく感じることもあった。露骨な態度であしらっても意に介さず食い下がるバイタリティーには、感心するやら辟易するやら、という有様だった。
状況が一変したのは1998年だった。金融市場改革「日本版ビッグバン」に抗議する短銃所持の男が、東証に立てこもる事件が発生。ヘリが低空飛行しているので「何事か」と驚いたら、「エレベーターに乗るな!」と職員や警備員が叫んで回っていたのを覚えている。2001年にはさらに米国で「9・11」が起き、東証のセキュリティーは大幅に強化された。
「保険に入らない」2タイプの人
足で稼ぐドブ板営業のイメージとは対象的に、保険ビジネスはデータと確率が支配する「数理」の世界だ。徹頭徹尾、理詰めで構築されているからこそ、一部の人には保険が無用のものに映るのだろう。
作中で挙げられる「生命保険に入らない2タイプ」のひとつは、自分の死後を「知ったことではない」と達観する人。正直に言えば、私の本音はこれに近い。もっと興味深いのは「仕組みを全部解明しないと気が済まない人」にも保険は売りにくいという事実だ。
裏返せば「仕組みを理解していない人」が保険の主要顧客なのだ。長期にわたって多額の保険料を支払う高額契約であることを考えれば、「分からないまま買う」が多数派なのは奇妙な話だ。
とはいえ、保険の仕組みを理解するのはハードルが高く、ほとんどの人はそんな興味も時間もないのが現実だろう。
私は知人に保険について相談されると、「理解」の代わりにこんなプロセスを提案する。まず、自分がヘッジしたいリスクの範囲と規模を明確にする。その上で、そのリスクに対応できる極力シンプルな商品を探す。仕上げに、最低3社は保険料を比較する。要は相見積もりを取るのだ。
保険料にもマーケットメカニズムは働く。コテコテに特約がついたオススメ商品は避けて、プレーンな保険を選べば、比較や「相場の把握」がやりやすい。仕組みは分からなくても、不利な商品を選んでしまうリスクは相当下げられる。
高い買い物なのだから、この程度の手間は惜しむべきではない。特に重要なのはヘッジすべきリスクをクリアに把握すること。ここには「公的制度でどの程度の保障が得られるか」というファクターが絡む。このあたりの詳細は次回以降に考察することとしよう。