携帯電話をポスターや広告などのQRコードにかざし、クーポンや地図、チケットを入手する――そんな習慣もすっかり日常のものとなった。
QRコードは、二次元コードの一種。バーコードは横方向にしか情報を持たないのに対し、QRコードは縦横に情報を持つ。そのため、格納できる情報量が多く、数字だけでなく英字や漢字のデータも格納できるのが特長だ。元々は自動車製造現場などで使われていたものだが、携帯電話の普及により一気にメジャーに。コードにURLを格納することで、紙媒体の広告から詳細が表示されているWebサイトへのアクセスなどを誘引するツールとして活用されている。
パンフレットや新聞紙面や雑誌に動画がダウンロードできるQRコードを付け、携帯電話で読み取ることで、動画情報を視聴できるサービス「もってくムービー」。 |
サイトへのアクセスを誘引するのであれば、そのサイトが動的コンテンツであっても、なんらの不思議はないはず――。そこに着目した広告サービスが登場した。株式会社東洋メディア(兵庫県・神戸市)は、QRコードを利用し、動画を連動させた記事・広告ができる「もってくムービー」を発表。新聞紙面、冊子、ポスターなど、紙媒体を利用した広告にQRコードを付け、携帯電話のバーコードリーダーで読み込むことで、動画広告にアクセスできるというものだ。広告をいったんダウンロード、保存しておくと、後日でも見ることができ、通信費も一度分ですむ。
動画広告は、観光地やテーマパークなどの生中継、商品の動作している状況など、文章やイラストといった静的コンテンツでは伝わりきれない「動き」「雰囲気」などを伝えることができる。きわめて普及的な携帯端末となった携帯電話とQRコードを組み合わせることで、こういった情報量のきわめて多い動画広告に手軽にアクセスすることができるというわけだ。開発元の東洋メディアでは、広告主に向け、動画データ変換、動画製作などのサービスを提供している。
「もってくムービー」は、誰でもがどこにいてもさまざまな情報にアクセスすることができるユビキタス時代ならではサービスとも言える。パソコンや携帯電話のモニター上の画像が「動いていて当たり前」のデジタルネイティブの世代の人々にとっては、活用範囲の広いものであると思われ、そんな世代をターゲットに商品やサービスを広めたいと考えている広告主にとっては、有効だと言えるだろう。
だが、このサービスに限ったことではないが、広告主にとってオンラインを活用しての広告のプロセスや構造は、既存メディア(紙媒体、TVなど)での広告に比較して、けっしてシンプルではなく、むしろ複雑だ。なぜなら、既存メディアの広告は、発信しておけば自然とターゲットの目に触れるものであるのに対し、オンラインを活用しての広告は、発信したいと意図している広告に触れさせるには、「クリックする」「QRコードに携帯電話をかざす」といった「アクション」を誘発しなければならない。この誘発をどのように設計するのかを考えなければならないのだ。
オンラインならではの動画広告、「もってくムービー」の登場が象徴するように、一般消費者がそこにアクセスする手段、インフラは整いつつある。こういった広告が社会に定着するために残された条件は、言うまでもなく、広告主がその成果を認めることだ。そのためには、オンライン時代にふさわしい新たな広告理論・手法の成熟、定着が鍵になってくると思われる。
(梅村 千恵)