少子高齢化に長引く不況。取り巻く環境は厳しさを増すがサイゼリヤには関係ない。苦しむ同業他社を尻目に営業利益率10.4%を達成した。その裏には食材を種から作るこだわりと、食品加工工場を活用し、店舗作業を限界まで簡素化してきた積み重ねがある。目指すは外食企業の枠を超えた製造直販業だ。(取材・文/『週刊ダイヤモンド』編集部 片田江康男)
さかのぼること約4年、サイゼリヤは食材調達にこだわり、トマトの品種開発に着手した。
イタリア料理を出す同社にとって、トマトは鮮度や味、色、堅さ、食感などいっさい妥協のできない重要な食材だ。特にサラダに載るトマトは存在感が大きいゆえに、品質が悪ければ即クレームに結び付く。
当時、トマトは店頭で調理されるまでの時間を逆算して、赤く熟す直前に収穫されていた。青くて堅いままだからこそ、配送で受ける振動に耐えられ、形が崩れることが少ないという利点があった。
店頭では赤くなったトマトから調理されるが、逆算はしばしば狂う。必要なときに必要な量の赤く熟したトマトが店になければならないが、トマトの赤みをコントロールすることは難しい。
客の注文が殺到したとき、青いトマトばかりでは機会ロスにつながる。いきおい、店は機会ロスを減らすため常に多めにトマトを確保しておかなければならない。
トマトに限らず、こうした食材の仕入れ量と使用量に関するジレンマは外食業にとって当たり前で、多くの場合はこの状況を受け入れる。しかし、サイゼリヤは違った。
「赤く熟してから収穫しても配送に耐えられる堅さで、かつおいしくて食感もよい」というすべての条件を満たす究極のトマトがあれば機会ロスの軽減と利益率の改善ができると考えたのだ。
しかし、そんなに都合のよいトマトがあるわけがない。検討した結果至った結論は、種からトマトを開発することだった。
こうして同社最大の契約農場である白河高原農場で、味や色、食感、配送に耐えられる堅さなどの条件を満たすトマトの研究開発がスタートした。
現在、店で出されるトマトはその結晶だ。店では機会ロスはもちろんのこと、トマトの廃棄ロスの減少をも達成。また、「トマトが青い」というクレームも減った。
サイゼリヤのコスト削減に関する執念は業界内で一目置かれる。トマトはほんの一例にすぎない。こうした創意工夫の結果、同社の経営指標は他の追随を許さない。