大手パソコン(PC)メーカーの幹部らが最近、相次いで淡路島を訪れている。供給不足に陥っているノートPC用リチウムイオン電池を求めて、ここに本部を置く三洋電機の電池事業部門、モバイルエナジーカンパニーに、供給増を頼み込んでいるのだ。三洋はリチウムイオン電池でトップシェアを誇る。

 需給が逼迫している理由は大きく3つある。

 第一に、ノートPC市場の急拡大だ。米調査会社IDCによれば、2008年1~3月期の出荷台数は、対前年比で40%も伸びた。

 第二に、昨年来相次いだ電池メーカーの工場火災によって、供給が減少したためである。昨年9月に松下電池工業、今年3月には韓国LG化学で火災が発生し、松下はこの3月に完全復旧したばかりで、LGは「いまだ完全復旧に至っていない」(関係者)。

 第三に、小型化・コードレス化が進む電動工具用電池の需要急拡大だ。ノートPCも電動工具も同じ円筒型電池を使用しているが、電池メーカーからすれば、「常に値下げ圧力のあるノートPC向けよりも、電動工具向けに売ったほうが儲かる」(業界関係者)ため、各社は電動工具向けの増産を優先する傾向にある。

 「なぜ他社には出せてウチには出せないんだ」――。

 ある電池メーカーの営業担当者は、大手PCメーカーからそんな叱責を受けたという。それほど、各社は必死で電池の確保に奔走している。特に、LGからの調達比率が大きかった米ヒューレット・パッカードなどは厳しい模様だ。

断トツの三洋をサムスンが追う ノートPC用リチウムイオン電池のシェア 一方、電池業界は活況にわいている。「完全な売り手市場。いくら作っても供給が追いつかない」(関係者)。特に好調なのがシェアトップの三洋と2位の韓国サムスンSDIだ。両社は共に積極的な設備投資で、松下やLGがつまずいたすきに生産能力を増強しシェアを伸ばしている(右のグラフ参照)。シェア3位のソニーや松下も増産に動き始めており、業界全体の供給能力は上がってきている。

 それでも、供給不足は当面続く可能性が高い。ノートPC市場は成長にはずみがつく一方、電池の急激な供給増は望めないからだ。電池の製造には高度な技術とノウハウが必要で、供給できるメーカーは限られる。「需要に対して10~20%足りなくなるのではないか」(三輪秀明・テクノ・システム・リサーチ・マーケティングディレクター)という見方もある。

 ノートPC市場の急拡大に乗って一様に好業績を享受してきたPC業界だが、今後は電池の調達が明暗を分ける。壮絶な争奪戦はまだまだ続きそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田 剛)