肝臓を押さえる男性写真はイメージです Photo:PIXTA

健康診断で「脂肪肝」と指摘されても、多くの人は軽視しがち。だが、肝臓専門医の著者は、この時点で「肝硬変」の予備軍だと自覚するよう警鐘を鳴らす。脂肪肝→脂肪肝炎→肝硬変へと進行し、取り返しのつかない事態を招く仕組みを解説する。本稿は、尾形哲『甘い飲み物が肝臓を殺す』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。

脂肪肝の人は全員が
肝硬変の予備群

「脂肪肝という病気の怖さ」について、深掘りしていくことにしましょう。

 私はたまに「脂肪肝を放置した末の病気で、いちばん怖ろしいものは何ですか?」と聞かれることがあります。その際は、何の迷いもなく「肝硬変です」と答えます。

 これまで私は肝硬変に苦しむ患者さんを数えきれないほど見てきました。肝臓という臓器はほとんど症状を発しないため、知らぬ間に脂肪肝や脂肪肝炎を悪化させてしまう人が多い。そして、黄疸やむくみなどの症状が出始めて「これはおかしい」とようやく気づいたときにはすでに肝硬変がだいぶ進んでしまっていた……というケースが後を絶たないのです。

 私はそういう患者さんをひとりでも少なくしたい。私が脂肪肝や脂肪肝炎に対してさかんに警鐘を鳴らすのも、「肝硬変になって苦しむ人を少なくする」ことが肝臓専門医としての使命だと考えているからです。

 では、肝硬変はいったいどのように進んでいくのか。

 肝硬変は、肝臓の細胞が破壊されて「線維化」が進み、肝臓全体が硬く変質して機能しなくなる疾患です。コトの始まりは脂肪肝。肝細胞に脂肪がたまると1~2割の人に脂肪肝炎が発生するのですが、この炎症が始まると線維化のスピードがグッと上がり、5年から10年の間に肝硬変になるとされています。

 要するに、悪化する段階を単純にたどるのであれば、「脂肪肝→脂肪肝炎→肝硬変」という流れになり、この流れの中でも、肝細胞の炎症である脂肪肝炎を発症させてしまうかどうかが大きなポイントになります。脂肪肝の状態はまだ「黄色信号」だとしても、脂肪肝炎になったらもう「赤信号」だと思ったほうがいいでしょう。