運用資産の含み損が535億円というから、並みの上場企業なら倒産である。慶應義塾が5月末に発表した2008年度の財務データによれば、535億円のうち170億円を評価替えにより損失処理し、その結果、消費収支差額が269億円の支出超過、つまり赤字となった。
もっとも、慶應関係者は意外にも冷静。「世界的な資産下落のなかでは、むしろ損失を抑えることができたと思う。含み損があたかも実現損のように思われるのが問題で、実態をわかりやすく説明する方法を考えていかなくてはならない」(財務担当の清水雅彦常任理事)。
確かに、運用資産額は評価替え後でも1173億円あり、財務危機に陥っているわけではない。投資対象の大半は優良株、投資信託、公社債等で、08年度も31億円の資産運用収入を得ている(07年度は57億円)。
そもそも慶應の場合、じつは07年度末ですでに226億円の含み損を抱えていた。リーマンショックによる混乱で2倍以上にふくらんではいるものの、「なぜ今になって騒がれるのか」と関係者は困惑気味だ。
こうした長期保有目的の資産運用方針は、ほとんどの学校法人に共通する。ところが05年から学校会計基準に一部、時価会計が取り入れられたため、多くの学校法人が評価損計上を余儀なくされている。はたして時価会計が学校会計基準になじむのか、再考されるべきだろう。
加えて、運用担当者育成は焦眉の急だ。「今後の少子化を考えると、否応なくリスクを取った運用も考えざるをえなくなるが、現状は金融機関任せ。学校法人に運用の専門家などほとんどいない」(ある大学の財務運用責任者)。慶應の含み損問題が投げかけた波紋は大きい。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 千野信浩)