いつも謙虚で控えめなのに、なぜか一目置かれる人がしていることとは? 世界で話題となり、日本でも20万部を超えたベストセラー『「静かな人」の戦略書』の著者、ジル・チャンが待望の新作を刊行。謙虚な人ならではの作戦を伝授する『「謙虚な人」の作戦帳――誰もが前に出たがる世界で控えめな人がうまくいく法』だ。台湾発、異例のベストセラーとなっている同書より、特別に内容の一部を公開する。

「欠点」をはっきり言葉にできるか
外に向かって自己PRをするときに障害になるのは、「クライアント/視聴者は、私の完璧な姿を見たがっている」という思い込みだ。プレゼンは完璧でなくちゃダメ、あらゆる知識を身につけていなくちゃダメ、どんな質問にも余裕で答えられなくちゃダメ、そうでなければクライアントに信頼されない……。
考えてみよう。
あなたが買い物をするとき、完璧な人から完璧なサービスや商品を買いたいと思うだろうか?
もし販売員がふたりいて、ひとりは「この商品は『完璧』ですよ。絶対に後悔しません」と言い、もうひとりは「正直なことを言いますと、この商品には1つだけ欠点があって、頻繁に充電しなくちゃいけないんです」と言ったとしよう。
あなたはどちらの販売員から買いたいだろうか?
合理性にもとづいて考えれば、購買行動は最大の満足を追求するはずだから、同じ価格なら完璧な商品のほうを買うだろう。だが多くの人は、欠点も正直に話してくれる人から買うのではないだろうか。
心理学には「過補償」という概念がある。ある分野の欠点をカバーしようと過度に補い、必要以上に矯正してしまう状態を指す。過補償は「何かを隠したい」心理の指標になるので、人は「完璧さ」を謳う商品や人を信頼しなかったり、避けたりする傾向にあるという。
これを知ってもなおクライアント/視聴者に、完璧なあなた、完璧な商品、完璧なサービスを見せる必要があると思うだろうか?
「弱み」をはっきり言える人は一目置かれる
――そこでぼやかす人はナメられる
インタビューの最中にこう尋ねられたことがある。
「作家として、あなたが読者に与えられる価値は何ですか?」
こんなにも直球の質問は初めてだった。そのとき、私は自分がどんな価値を提供できるのか本当にわからなかった。
しばらく考えたあと、私はこう答えた。
「私の価値は……、たぶん私の弱さじゃないでしょうか。こういう正直な失敗や悩み、恐れ、不安などは、AIには生み出せないものだと思います」
まさかインタビュアーがこの答えに大いに賛同してくれるとは思ってもみなかった。
「100パーセント同意します。あなたの本が多くの読者に届いているのは、あなたが正直だからでしょうね」
彼は笑ってそう言った。
おそらく私たちは、完璧である必要はないし、すべてを知っている必要もない。
弱さや欠点を見せられるときに見せ、わからないときにわからないと言うことが、信じるに値する人間だと相手に思わせるのだ。
(本記事は、ジル・チャン著『「謙虚な人」の作戦帳』からの抜粋です)