これから「適度なかまい方マニュアル」というタイトルで語っていくのは、主にミドル・マネジャーに向けた「若手社員を辞めさせず、成長させる」ためのノウハウです。大卒新入社員の30%強が、3年以内に会社を辞めるという時代。企業にとっては採用コストが捨てガネになり、当の若手にとっては成長機会をムダにする、どちらにとっても大きな損失であると思います。
転職ビジネスが隆盛をきわめる一方、若手は打たれ弱くなっているとも言われます。早期離職しやすい状況は内も外も色濃くなっていることは間違いないでしょう。
そこで問われるのは、若手とダイレクトにかかわる上司・先輩の人材マネジメントです。
私が所属しているダイヤモンド社人材開発事業部では、「適度なかまい方」というコンセプトを提唱し、若手を簡単に辞めさせない人材マネジメントのサポートに取り組んでいます。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていきたいと思います。
部下の「僕、辞めます」に
面食らうだけの上司
大手メーカーで営業課長を務める友人に相談を受けました。開口一番、彼は「また部下に辞められちまったよ…」と嘆くのです。この1年で退職した20代の部下は、2人目だといいます。
「いや、転職するのはしょうがないよ。うちより規模が大きくて、業績もいい会社に転職するっていうんだから。言っちゃあなんだけど、うらやましいぐらいのもんさ」。ビールのジョッキがぐいぐいあいていきます。
「でもさ、辞める前に一言なにか、相談があっていいんじゃないかと思うんだよ。なのに全部決まった後で『辞めます』と一言。それで終わりなんだ。どう思う?そんなもんなのか、今の若いやつは…」
彼は高校の同級生。10代からの友人が、「今の若いやつは」などというのを聞いて、多少の感慨があります。
「だけどさ」、と私は答えます。「会社を辞めようと思うんですが、どう思いますか、なんて聞くと思うか?本気で辞めるつもりなら、そんなこと聞かないだろ?」
「まあ、そりゃそうかもな」
「事前に聞いてくるなら、それは迷っているか、あるいは引き止めてほしいんだ。今回の場合は、本気で辞めようと思ってたんだよ」
「そうかもしれないけどさ。でも、こう次から次に辞められんじゃ、たまったもんじゃないよ」
気持はよくわかります。でも、こう聞かずにいられませんでした。
「ある日突然、みたいなことを言うけどさ、まったく予兆は感じなかったのか?」
「まったくない。っていうか、全然気付かなかった」
「机の上が整頓され始めたら、危ない、なんて言うけどな」
「おれも日常業務が忙しいからさ。若いやつが日々何を考えてるかなんて、いちいち気にしてられないよ」