週刊ダイヤモンド 今年、トヨタ自動車は販売台数でずっと世界一だった米ゼネラル・モーターズを追い抜いて、販売台数、生産台数のいずれも世界一の自動車メーカーになりました。

 でも、本来なら、非常におめでたいはずのこのニュースは、ほとんど話題になりません。

 その原因は明らかで、トヨタの今期の決算は、戦後初の営業赤字に転落してしまうからです。雇用や地元自治体、部品メーカーなどに与える影響は甚大で、その“衝撃”の方があまりに大きく、「世界一」の話題がかすんでしまうのも無理はありません。

 トヨタといえば、これまでずっと右肩上がりの成長を続けていた企業です。「トヨタ生産方式」はあまりにも有名ですが、徹底した効率化と人材教育など、トヨタは日本国内のみならず、世界中から企業経営の“お手本”として長らく研究されてきました。

 そのトヨタが売上高、販売台数、各利益項目で過去最高だった2008年度決算から一気に赤字に転落する事態なのです。まさに、「わずかに1年で天国から地獄」。どうして、こんなことになってしまうのでしょうか。疑問が生じてしまうのも、無理はありません。

 そのせいか。こんなトヨタに関する暗いニュースに対し、「トヨタは不況宣伝している」「トヨタはわざと赤字を出している」といった“都市伝説”"のような話もしばしば聞こえてきます。

 また、創業家出身の豊田章男副社長が社長に昇格するトップ人事も1月20日に発表され、“V字回復”への期待も高まっています。

 そこで、今回の特集では、最強のトヨタがどうして赤字になってしまうのか、果たして、V字回復の可能性はあるのか、その構造と先行きを徹底分析し、わかりやすく解説することに努めました。

 さらに、先ほども触れましたが、トヨタは終身雇用制や労使協調、密な社内での人間関係等々・・・、いわゆる日本的な企業の代表であり、ある意味で日本の縮図とも言えます。「トヨタを通じて日本経済全体を語る」という視点でも、硬軟織り交ぜた話題をさまざまな視点から取り上げています。

 それから忘れてならないのは、トヨタのお膝元である名古屋経済への影響と実態です。弊誌恒例の特集「都市経済特集」を担当するベテラン記者を含め、複数の記者が徹底取材を行っています。

 今回の特集を通じて、しみじみ感じたのは、日本の製造業は、米国に比べ、モノづくりに対して愚直なまでにマジメで真摯に取り組んでおり、それが強さの根源にもなっているのですが、その一方で、世界最大市場である米国経済、急激な為替変動のインパクトに、いつも翻弄されて来ました。

 今回のトヨタのケースも同様で、結局、日本の製造業全体が米国依存、円安依存を背景にした輸出型ビジネスモデルから抜け出していないことを示しています。

 今回の特集は、トヨタという巨大企業を通じて、日本の製造業、産業構造のあり方についても、さまざまな議論の一助になればと思います。“最強トヨタの検証”は、最強といわれた日本の製造業の検証でもあるのです。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣)