儲かる農業2025 日本の夜明け#14ネギの栽培、収穫、出荷、販売の各工程で独自の工夫を積み重ねてきたねぎびとカンパニーの清水寅代表。現在は「葱出荷組合zero」の運営・拡大に注力している 写真提供:ねぎびとカンパニー

“1本1万円でネギを売る男”として、その名を知られるようになった、ねぎびとカンパニーの清水寅代表。ダイヤモンド編集部が選定する「中小キラリ農家ベスト20」で3位となった同社は現在、他の農家を巻き込んで「ネギ農家の強者連合」を形成している。特集『儲かる農業2025 日本の夜明け』の#14では、強者連合が拡大しているからくりと、その先にある「ネギの国内自給率100%達成」という大きな野望について詳述する。(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)

1本1万円の超高級ネギ3本を作ることで
残り299万本を高く買ってもらう販売戦略

 1本1万円で売れる超高級ネギ「モナリザ」。規格外に太くて甘いこのネギは「300万本植えた中で年間最大3本しか取れない」と、山形県天童市のねぎびとカンパニーの清水寅代表は語る。実はこの3本、手間と費用がかかるため収支自体は赤字だという。

 清水氏の狙いは明確だ。モナリザを作ることで「当社のネギのブランド価値を分かってもらい、残り299万本を高く買ってもらう」ことにある。実際スーパーの店頭で2本198円にとどまっていた価格が、この戦略で298円になった。

 中小キラリ農家3位となった同社の独自性は販売やブランド戦略にとどまらない。有機肥料や微生物を活用し、雑草をなるべく生やさない栽培手法や、収穫や出荷の作業時に従業員が楽しみながら生産性を上げられる工夫など、現場に即した改善の積み上げは多岐にわたる。

 種の発芽率や従業員の作業量といった数値化できることは、なるべく数字に落とし込んで試行錯誤を繰り返し、収益性の向上につなげているのが同社の特長だ。

 超高級ネギの成功以来、全国から多くの農家が清水氏の元に相談に来るようになった。ネギの栽培や販売について、みんな悩みを抱えていたのだ。独自のノウハウを惜しむことなく伝える中で生まれたのが「葱出荷組合zero(ゼロ)」である。

 誕生からまだ3年目のゼロだが注目度は高い。ダイヤモンド編集部選定の「農家が『期待する農業参入企業・農協組織』ランキング」でねぎびとカンパニーは、トヨタ自動車やイオンと並ぶ17位だった(詳細は本特集の#3『農業のAI・DX・GXで農家から支持される組織ランキング!NTT躍進、JA・三菱商事・トヨタは?最新「業界勢力図」を大公開』参照)。

 “1本1万円でネギを売る男”として、その名を知られるようになった清水氏が現在、最も注力しているのはゼロの運営と拡大である。この強者連合が農家からの支持を広げている秘密と、その先にある「ネギの国内自給率100%達成」という大きな野望について、次ページで詳述する。