
トランプ米政権の包括的な関税政策の目的を特定するのは簡単ではない。ドナルド・トランプ大統領は、貿易相手国を威嚇し、それらの国々への影響力を強めるための脅しとして関税を利用することがある。一方、減税や他の優先事項の財源となる新たな税収を得ることが、主要な動機のように思われることもある。
しかし、トランプ政権当局者が目的に挙げることが最も多いのは、製造業の雇用を米国内に戻すこと、つまり米国の再工業化だ。JD・バンス副大統領は今月、ミシガン州での演説で、「見返りを得たいなら米国内に(工場を)建てることだ。ペナルティーを与えられたいなら米国の外に建てればいい。それほど単純なことだ」と述べた。
関税が幅広く不人気であることは、トランプ政権にこの政策の推進を断念させる要因にはなっていない。株式投資家は明らかにおびえている。トランプ氏が新たな関税の導入や関税の引き上げを発表するたびに株価は急落し、その発動を延期あるいは取りやめにすると株価は上昇する。消費者景況感指数は最近、29カ月ぶりの低水準となった。将来の状況についての期待指数は今月15%低下し、コロナ禍後で最大の落ち込みを記録した。中小企業経営者を対象とする2月の調査では、事業拡大を計画しているとの回答が2020年4月以来の大幅な減少となった。
ハワード・ラトニック商務長官は、たとえ関税がリセッション(景気後退)を引き起こしたとしても「それだけの価値がある」と述べている。どのような痛みがあったとしても、その先に大きな利益が待っているからだという。だが、これは疑わしい。われわれの分析では、大規模な再工業化が起こる可能性は極めて低いことが示されている。貿易黒字幅が大きな国でも、雇用全体に占める工場労働者の割合は縮小している。米国も同じ道をたどると考えるべき理由がある。