第1回と第2回で示した総需要と総供給のモデルを用いて、2007年以降の経済危機の分析を行なっておこう。
日本で生じたのは、需要の外生的な減少である。具体的には、数ヵ月の間に輸出が半減するほどの戦後最大のショックが生じた。これは、【図表1】に示すように、総需要曲線(AD)を外生的に左方シフトさせた。ただし、それは、「財」に関して生じた。「サービス」に対する需要は、直接的には不変にとどまった。
なお、石油ショックは総供給曲線(AS)の上方シフトだったので、需要面でこうした大きなショックが加わったのは、戦後の日本が初めて経験することだった(*注1)。
総需要曲線が垂直であるため、産出量は総需要の減少幅だけ減少する。こうして、GDPは戦後最大の下落を記録した。つまり、日本が輸出の減少という外生的な変動によって大きな影響を受けたのは、総需要曲線が垂直だったからである(総需要曲線が垂直になるのは、これまで述べてきたように、「流動性トラップ」に落ち込んでいるからである)。
仮に総需要曲線が垂直でなかったとすれば、総供給曲線が水平でないかぎり、【図表2】に示すように、外生的な需要減少の一部は物価の下落に吸収され、産出量の減少幅は総需要の減少幅を下回っただろう。
この変化は原理的には物価を下落させることとなるが、総供給曲線の価格弾力性が高くなければ(総供給曲線が水平に近い形であれば)、価格下落はあまり大きくないだろう。実際に起きたのは、そうしたことだった。
こうして製造業部門の生産が縮小し、失業が発生した。また、製造業部門での利益が減少した。利益が減少したのは、価格の下落によるのではなく、固定費の負担が不変であるにもかかわらず生産量を減少させたためである。それは経済全体の総所得を減少させ、その結果として、サービスに対する需要を減少させた。このため、非製造業の利益も減少した。
まとめれば、今回の経済危機では、つぎのことが生じた。