コロナワクチン開発で示されたアメリカの「強さ」の理由は、世界各国から優秀な人材を受け入れ、能力を発揮できる機会を与えてきたことにある。その背景のひとつに、ナチの劣等民族根絶政策を受け、優れた科学者がドイツや近隣諸国から逃げ出した過去があった――。本稿は、野口悠紀雄『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。
業界の常識を超える速さで
開発されたコロナワクチン
コロナワクチンは驚くべき速さで開発された。
従来、ワクチンの開発には非常に長い年月がかかった。これまでに開発されたワクチンの中で、ウイルスの分離から承認までの期間が最も短かったのは、1960年代に開発されたムンプス(流行性耳下腺炎)ワクチンだが、それでも4年かかった。
2020年5月、アメリカのトランプ大統領は、2021年1月までに有効で安全な新型コロナワクチンを開発する計画を発表した。これは「ワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)」と命名された(「ワープ・スピード」とは、映画「スター・ウォーズ」シリーズに登場する言葉で、「光速を超えたスピード」の意味)。
約100億ドルという空前の規模の投資が行なわれた。それでも、2021年1月までにワクチンを完成させるという目標は、楽観的すぎるように思われた。
ところが、早くも2020年11月に、いくつかのワクチン開発元が大規模試験での優れた成績を発表した。それ以外にも多くの有望なワクチン候補が登場した。