準備して、準備にとらわれない
何事も、行きあたりばったりでは力は出し切れない。
なんとかなるだろうと軽い気持ちで、説得にかかったところ、
「そもそも、なんでやる必要があるのか」
と、そもそも論を持ち出されて、必要性について、順序立った説明もできないまま、引き下がる羽目に……といったケースは、決して少なくない。
準備しないで説得に臨む最大の欠点は、
「なんだ、そんなことも調べてないのか」
と、相手に主導権を握られてしまう点にある。たとえ、知識・情報が豊富でも、整理され順序立っていなければ、力強い主張はできない。
準備して臨んでも、準備が役に立たないこともある。
「残業までして準備したのに、損した」
でも、それは違う。そのとき役に立たなくても、蓄えとして残る。蓄積は余裕を生む。
ある政令指定都市。
市が推進する施策について、住民の理解と協力を得るための説明会が催されることになった。
会議には、当日、80人近い人たちが集まる予定だった。説明に当たる吉池課長は入念に準備し、資料・パワーポイントのシートにも、前の日に目を通した。
1つだけ気がかりなのは台風の接近で、当日の朝から、強い風が吹き荒れ、時々雨が激しく降ってきたことだった。午前中、会場に連絡すると、
「予定どおりやります」
とのこと。
吉池課長は、開始時間15分前に入った。広い会場には、5人の人しかいなかった。開始時間になっても、人数は増えない。
先方は、5人でも始めてほしいという。80名を想定して準備した話を、5人の前でするわけにいかない。