おカネの運用関係に対象を絞るとしても、金融ビジネスのイノベーションには2つの潮流がある。

 1つは、商品を複雑にして、利潤を大きくしようとするタイプの商品やサービスの開発であり、もう1つは商品を単純にして低コストを武器に市場を奪おうとするタイプのアイディアだ。共に単なるおカネ儲けの工夫なので、「イノベーション」という言葉を使うのは大げさかもしれないが、時に、業界地図を大きく変えるような効果が生じることがある。

 複雑化・利潤拡大型の運用ビジネスのアイディアをいくつか挙げてみると、個人向けにはEB(他社株転換権付債券)を含むデリバティブ条件を組み込んだ「仕組み債券」や「仕組み預金」などの「仕組み物」の商品が代表的だ。

 ここでは、売り手側の利潤(概して大きい)を価格や条件に含めて隠す手段として、金融工学が使われている。金融工学自体は悪意のない中立な知識であり、手段にすぎないのだが、ビジネスの世界で、相当数の悪用例があるのは事実だ。

 金融工学の多くの結果は、「うまい話」つまり裁定が存在しないという条件から導かれる。したがって、金融工学を応用したと称する商品は、手間がかかっているぶんだけ(あるいは前提条件にあいまいさがある場合にはこれをカバーできるように)十分な利幅を売り手側が設定しているはずだから、相手が儲かるような条件に違いないのだ。このあたりまで啓蒙が進むといいのだが、金融業界はそこまで顧客に優しくない。

 金融工学的な複雑さはなくとも、「ファンド・オブ・ファンズ」や「個人年金保険」など、商品やサービスをまとめて、実質的な手数料をわかりにくくするものもある。

 また、売り方では、「ラップアカウント」も利潤拡大型の工夫だし、セールスの接客を個別にかつ少々豪華にしてこれを「プライベート・バンキング」などと呼ぶ商売のやり方も同傾向のものだ。