評点(5点満点) 

本書の要点

・ヒラリー政権は、中間層の復活や「国家資本主義」による不平等の是正といった経済問題への対処を重視している。TPPについては反対を示しているが、当選後には「支持」に転じるという見方が濃厚だ。
・外交政策においては、「アジア旋回」の戦略を主軸に据え、日米同盟などの二国間同盟体制を維持しながらも、同盟国間の横のつながりや、より機動的なネットワークを求めることが予想される。
・ヒラリーは、女性の権利向上をライフワークとしており、今後は「女性」や「女権」における日米協調がいっそう求められるようになる。

要約本文

◆ヒラリーの思想、戦略、信条
◇国内・経済問題を重視するヒラリーの戦略

 ヒラリーが正式に大統領選挙の出馬を表明したのは、2015年4月のことだった。「絶対本命」と言われながらもバラク・オバマに苦杯を喫した2008年の選挙。それ以降、彼女は今度こそ「打ち漏らしはしない」という決死の覚悟で臨んでいる。そんなヒラリーの戦略とは、どのようなものなのか。

 著者によるインタビューからうかがい知れるのは、国内・経済問題を重視する姿勢である。将来の雇用がどの分野から生まれるのか、そこで活躍できる人材をどう育てるのかといった課題が、選挙の争点の中心になるというのだ。ヒラリーはファーストレディの時代から一貫して、中間層と呼ばれるアメリカ国民に目線を向けてきた。この「中間層の復活」こそ、ヒラリー政権の至上命令になるといえる。

 経済政策について、ヒラリーが示唆するもう一つの重要なことは、ロシアや中国などの新興国家に見られる「国家資本主義」に明確な対立の構えを見せている点である。政府の後ろ盾を持つ国営企業のせいで、優れた多国籍企業が不平等な戦いを強いられていると、ヒラリーは強く批判しているのだ。

◇TPPをめぐる変節の真相

 ヒラリーがTPPに関して意見を翻していることも注目に値する。国務長官時代のヒラリーは、TPPが公平な貿易に道を開くと、賛意を示していた。ところが、2015年春に一転して「まだ決められない」と慎重な姿勢を見せるようになった。民主党内でTPPへの反対・慎重論が増えていることを踏まえた、大きな方針転換であった。アメリカ人の雇用も生み出さず、賃金を上げることにも寄与しない協定は、彼女の基準を満たしていないというのが、不支持の根拠とされた。ヒラリーの態度の豹変ぶりを、米メディアの一部は非難した。