福祉や介護事業を展開するあいの土山福祉会では、魅力的な職場づくりと男女共同参画を積極的に推し進め、離職率の高い介護現場で就職待ちの志望者がいるほどの状況だ。また介護業界で女性活躍を推進するためのノウハウを公開するなど、情報発信にも積極的だ。

 「あいの土山福祉会」の本社所在地は、滋賀県甲賀市。従業員数は現在75人で、女性従業員比率は65.3%と高い。同法人が女性活躍推進の強化に取り組み始めた背景には、事業存続の危機感があったという。

あいの土山福祉会 服部治男 理事長

 服部治男理事長は、「地方にある介護事業所ということで、減少する労働者を他産業を含めて“取り合う”という実態があり、働きやすい環境を整備し人材確保を強化しなければ、事業継続が危ぶまれる事態に追い込まれていた。特に約6割を超える女性スタッフの就業継続は重要課題であり、そのため女性活躍を推進しようと考えたのです」と説明する。

 

 

労働環境が向上し、質の高い介護が実現

 まず「人材確保対策室」というプロジェクトチームを結成、人材が定着するような魅力的な職場づくりに取り組んだ。軸になったのは、介護業界の大きな離職理由である「腰痛、メンタル不調、残業」の3つを撲滅する「トリプルゼロ」という取り組みである。

移乗用電動リフトなど最新の介護機器を多数導入。人力での持ち上げ介助を原則禁止し、腰痛を防止した

 まず腰痛を防止するため、移乗用電動リフトなど最新の介護機器を多数導入、人力での持ち上げ介助を原則禁止にした。またストレスによる離職を防止するため、イベントやクラブ、海外旅行などを通じてチームワークの強化、ハラスメント撲滅を徹底した。

 さらにスーパーバイザーを配置して、経験が浅く技術的にスキルアップが必要なスタッフへの指導を迅速に行い、余裕人員をもたせることで、急な子どもの体調不良等で遅刻、欠勤する職員のシフトを補完できるようにした。「その結果、人間関係が良好になり、育児・介護が必要な職員も帰りやすくなり、周囲もそれを許容、支える風土になった。こうしたことが離職防止につながったのです」と、廣岡隆之事務局長は成果を語る。

定期的に個人面談を実施した

 残業撲滅については、業務改善や削減を徹底、完全に残業ゼロを達成。具体的には、朝礼の廃止や各種記録の簡略化とIT化、会議やミーティング時間の削減などを通して、利用者に直接かかわる介護以外の業務を大幅に減らした。さらに役職者とスタッフの個人面談を実施、スタッフの家庭環境に応じた柔軟な働き方を推奨した。

 皆で支え合う風土が醸成された結果、育児休暇を取得した後に復帰する職員はほぼ100%、慢性的な人材不足となっている介護業界では珍しく、就職待ちの志望者がいる状態に。

「介護は対人援助サービスなので、スタッフの労働環境が向上し余力が出ることで、優しくて質の高いサービスを提供できるようになりました。介護業界は“3K職場”としてネガティブなイメージが浸透していますが、地方の小規模な介護事業所でも、手法によっては十分魅力的な良い職場環境になると確信しています」と手応えを語る服部理事長。

 同法人は今回の内閣府特命担当大臣(男女共同企画)表彰を受け、「介護業界を変えていこう!」のスローガンのもと、その取り組みやノウハウを積極的に公開していく予定だ。