ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(1883-1950)。

 世界中で知られる高名な経済学者であり、世界中の経営者やビジネスマンにも大きな影響を与えている経済思想家だが、シュンペーターの著書が現在、広く読まれているわけではない。岩波文庫に代表作は収録されているものの、たぶん読破した人は稀であろう。もともとドイツ語で書かれ、表現も難しくて経済学のアマチュアがすらすら読める書物ではないからだ。しかし、シュンペーターの主たるアイデアはだれでも知っているはずである。

 シュンペーターは弱冠25歳で初めての著作である『理論経済学の本質と主要内容』(1908、注1)を上梓した。そしてさらにアイデアを膨らませ、1912年に刊行し、26年に改訂された『経済発展の理論』(注2)第2章「経済発展の根本現象」で、経済成長を起動するのは企業家(アントレプレナー)による新結合(ニューコンビネーション)だとしたのである。

 シュンペーターは新結合として次の5項目をあげている。この5項目についてはいろいろな翻訳があるが、ここではドイツ語から直接翻訳して簡略化した清成忠男氏(法政大学名誉教授)の表現を引用する(注3)。

 ・新しい生産物または生産物の新しい品質の創出と実現
 ・新しい生産方法の導入
 ・産業の新しい組織の創出
 ・新しい販売市場の創出
 ・新しい買いつけ先の開拓

 こうした新結合を遂行することがイノベーション(新機軸・革新)である。そして遂行の担い手が企業家であり、資金を供給するのが銀行家だと定義した。注意していただきたいのは、イノベーションが技術革新だけを意味しているのではなく、組織論まで含んだ非常に広い範囲の新機軸を表していることだ。

 シュンペーターは上記5つの簡略化された表現よりも、もう少し詳しく述べているが、これについては項をあらためて解説する。今回はとりあえず新結合の内容を頭に入れておいていただきたい。