2016年のパナマ文書問題で、富裕層の海外資産移転による租税回避が大きな話題になった。国境をまたいだ経済活動とそれに伴う課税の問題は、個人のみならず法人にもついて回る。国税当局が国家間の課税交渉を行う際、どんな組織がどんな役割を担うのか。元国税庁相互協議室課長補佐で、複数の税務署で署長を務めた経歴を持つ小寺壽成税理士に聞いた。

国税庁の国際課税問題
担当組織の構造

――パナマ文書問題を端緒に、海外を経由した租税回避が全世界でクローズアップされ、日本の課税当局も国際部門の業務に力を入れているようです。どのような組織がどのような業務を担当しているのでしょうか。

小寺壽成(こでら・としなり)
国税庁相互協議室課長補佐、東京国税不服審判所国税審判官、税務大学校教授、米沢税務署長、大和税務署長を歴任。現在、東京地方税理士会税法研究所研究員(法人税法担当)、一般社団法人租税調査研究会主任研究員(国際税務担当)、公益財団法人新聞通信調査会監事。2011年8月、税理士登録
Photo by TOMOHIRO HIGUCHI

小寺 国税庁では、長官官房の下に「国際業務課」と「相互協議室」が置かれています。

 私がかつて所属していた国際業務課では、国税庁国際担当審議官の指揮の下、外国の税務当局との協力促進や経験の共有を行うため、租税条約などに基づく情報交換、アジア税務長官会合、OECD租税委員会など国際会議への参加、開発途上国への技術協力などを行っています。

 同時に、海外の情報を適切に収集して各国税務当局との連携強化を図るため、日本と経済的つながりの大きい国・地域へ職員を長期間出張させています。

 長期海外出張者の派遣都市は、ニューヨーク、ロスアンゼルス、ワシントン、ロンドン、パリ、オタワ、ベルン、ボン、アムステルダム、香港、上海、北京、シンガポール、ソウル、ジャカルタ、バンコク、マニラ、シドニーなどです。

 相互協議室では、移転価格課税などによって国際的な二重課税が発生した場合に、租税条約の規定に基づいて外国の税務当局と相互協議を行い、国際課税問題の解決を図っています。

 また、国税庁「調査査察部」は、各地の国税局が大企業などに執行する国際課税の監督をしていますし、国税庁「課税部」の法人課税課や所得税課、資産税課も、傘下の国税局の国際課税を指揮しています。

※参考:国税庁「国税庁の機構」