近年、税務調査に関する法律が改正され、調査現場にも変化が見られる。この連載では、国税庁や税務署などで要職を務めたOBで組織する租税調査研究会の主任研究員が、それぞれの見地から税務調査の実態や対策についての解説を行う。第1回は、国税局査察部(マルサ)の仕事について、査察部出身の衛藤重徳税理士に聞いた。もしかしたら自分も…と漠然と悩む前に、まず、調査の対象となるケースを把握しておこう。
「パナマ文書」事件で
マルサは動くのか
――折しも、パナマの弁護士事務所から世界の富裕層の租税回避情報が流出したことが話題ですが、その中には日本人も数百人いるといわれています。今回の事件でマルサが動くことは考えられますか。
税理士、租税調査研究会主任研究員。国税局査察部門で査察官、審理課長、総括課長などを歴任。複数の税務署で署長を務めた後、2013年に退職、同年、税理士登録。
photo by TAKASHI MIYAGUCHI
衛藤 悪質な脱税行為が明らかで、刑事告発できるような証拠でも出てこない限りマルサが査察調査に入ることはありません。個人的な見解ですが、損益面、つまり、直近の収入が判明するなど、相当な情報を掴まない限りマルサは動かないと思います。ただ、情報収集と収集した情報の分析は積極的に行うと思います。
査察調査は、一般の税務調査とは全く違います。一般の税務調査は「任意調査」といわれ、調査に入るにあたって納税者の同意を得て行われます。税務調査では、基本的に納税者側へ「○月○日に調査に伺いたいのですがよろしいですか」と電話で確認します。日時を決めて、納税者に調査の協力を得るのです。
無予告で調査する場合もあります。例えば、調査が入ることが事前に分かるとお金を隠しかねないような現金商売の業種に対しては、無予告調査が行われます。しかし、一般の税務調査では、無予告といっても電話での事前連絡がないだけで、調査に入る直前には納税者に同意を得ます。
一方、「査察調査」は「強制調査」といわれ、裁判所から令状(臨検、捜索、差し押さえ)を取って行われるので、相手方の同意を必要としません。査察調査は告発を目的にしていますから、内偵段階で確たる証拠を掴むまで動きません。マルサでは調査のことを「ガサ入れ」などと言いますが、物証が出てくるなど不正の全貌を解明できそうになってから動きます。
――テレビニュースなどで、国税局が大人数で企業に乗り込むシーンがありますが、あれがマルサの査察調査ですね。踏み込んだ後、資料の入った段ボールなどを車に詰め込むシーンも映像に映し出されます。
衛藤 まさしくあれです。査察調査は悪質な脱税行為、そして脱税額が大きなケースを中心に調査します。イメージとしては、警察が行っている強制調査と似ています。脱税者への取り調べにおいても、脱税を自認させることになるので、職員の間では自認を「落とす」などと言ったりすることもあります。