2017年1月から、新しい制度に改定した「個人型確定拠出年金=iDeCo(イデコ)」が開始されました。以前は、企業年金がない会社に勤める人だけが加入できる制度でしたが、改定後は条件付きながらも、会社に企業年金がある人も始められます。
それにともなって年金や退職金に、働く人たちの注目が集まっているのですが、一方で会社を経営する側にとっては、それらの制度については関心が低いままです。
この度、退職金、企業年金に詳しい山崎俊輔氏が『小さな会社のための新しい退職金・企業年金入門』を上梓。
この連載では、そもそもの退職金制度の仕組みの説明をはじめ、中小企業の社長さんや、人事、総務部門の人たちが、どのように、退職金、企業年金制度を活用すればいいかを、新たに書きおろしてご紹介していきます。
簡単そうで難しい?
退職金と企業年金の違いはどこにある?
退職金・企業年金改革の必要性に関心が出てきた中小企業経営者がその実現に至るためにはまだいくつかのハードルがあります。そのひとつは「退職金・企業年金制度の違いがそもそもわからない」ということです。
確かに「制度がたくさんあってよく分からん!」という声はよくお聞きします。まず、わかりやすく解説してくれる専門家がいないこと。社会労務士の先生も、税理士の先生も企業年金の専門家ではありません。
さらにコンパクトかつ横断的にまとめられたガイドブックもないので(筆者が書籍執筆に至った動機のひとつでもあります)、社長さんは情報収集以前で止まってしまうわけです。
しかし、「退職金用のお金をどこに置くか」というポイントを中心に整理をしていけば、退職金・企業年金制度はそれほど難しいものではないのです。
退職金と企業年金の違いは
「準備の計画性」にある
まず、最初に退職金と企業年金の違いを確認しておきましょう。
ざっくりと簡単にいえば、「退職金」は社員が辞めたときあわてて資金繰りする制度で、「企業年金」は在職中から少額の積立をしておき退職時に資金準備は不用な制度です。
退職金規程のみで退職金のルールを設けている場合、支払いに必要となるお金を事前に計画的に貯めておく義務がありません。貯めたところで税制優遇がなく、そのお金は法人税の課税対象となる利益になってしまうので、計画的に貯めておくこともあまりお薦めできません。
これはつまり、退職者が実際に辞めた前後にあわてて資金繰りするリスクを将来にわたって負い続けるということです。
100人程度の会社で、定年退職者が1~2名程度の年度は苦労しなくとも、5~10名あるいはそれ以上の退職者が連続する時期には(言い換えれば38年前に新卒採用が多かったということ)、資金繰りに苦労することになります。
さらに準備できないから払えない、あるいは棒引きしてもらうようなことは許されません(退職者が労働基準監督署へ通報すれば全額一括払いを指導されます)。退職金規程は将来に支払いのツケを回すような仕組みなのです。