Photo by Toshiaki Usami
会社を興す野心も、経営者になる野心も皆目なかった。2010年12月にジャスダックへ上場した1stホールディングス社長の内野弘幸にとって、ソフトウエア開発・販売の分野で先端を走る原動力は、顧客の期待を裏切った新人時代の自分へのリベンジだった。
1979年、学生時代にコンピュータへ漠然とした夢と希望を抱き、コンピュータ販売会社に入社した。パーソナルコンピュータ(PC)が普及する前の時代で、中小企業にオフィスコンピュータ(オフコン)の導入を提案するのが仕事だった。
業務効率化のためにオフコン導入を決めた顧客が見せる期待に満ちた表情が内野には苦手だった。コンピュータへ無邪気に憧れた学生時代の自分と重なり、後ろめたさを感じたからだ。
というのも、当時のオフコンはユーザーの期待に応え切れるものではなかった。導入の総費用は数千万円規模。リースの支払いで月40万~50万円かかるケースが多く、中小企業にとって値の張るものだったが、オフコンが実際にやれることは計算、伝票処理がせいぜい。処理スピードも現在と比べてケタ違いに遅かった。在庫管理、顧客管理などまで総合的に効率化したいという希望を、限られた予算でかなえることは難しかった。
費用対効果が小さいのは、システム構築がまるで“注文住宅”だったからだ。顧客に業務をヒアリングし、個々にシステムをつくるため、膨大なコストがかかった。
そんななかで業種や業態別に汎用できるパッケージソフトを先駆けて積極的に開発していた会社があった。翼システムだ。
ユーザー視点で帳票ソフトを開発
業界の反発をはねのける
「これこそがユーザー視点のビジネスモデルだ!」。感銘を受けた内野は92年、翼システムに入社した。
同社は自動車業界でポジションを確立しており、内野のミッションはそれ以外の新規マーケット向けに企画開発し、販売すること。1人社内ベンチャーだった。
高い技術を持つテクノロジー会社を発掘して手を組み、95年に帳票をプログラミングすることなく設計、運用できるパッケージソフトを開発、発売した。帳票作成ソフトで現在トップシェアを誇る「SVF」の前身である。